愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第6章 籠鳥恋雲
一体‥何があったっていうんだ‥。
まさか兄さんが、こんなに泣き噦るほどの辛い目に合わせたっていうの?
胸の中に顔を埋めてる男の子を抱きしめながら、そっと辺りを見回した。
脱ぎ捨ててある長襦袢‥
床に転がっている切り硝子の瓶‥
その周りには濡れたような染みが残っていて、慣れない匂いが漂っている。
これ‥多分、舶来物のお酒だ‥‥
昨日の夜していた物音って‥‥
おれは涙は止まったものの、まだしゃくり上げている男の子の顔を覗き込むと、兎のように真っ赤に泣き腫らした目をしていたから‥一緒に食べようと持ってきた小箱の中からキャンディをひとつ摘んだ。
これで泣き止んでくれるかな‥。
子供じみたことをしてるなって思ったけど、おれの摘んでるものを見つめるその子に
「ほら、お口開けてごらん?」
と甘い玉を入れてあげようとするけど、小さな唇を噤んだまま、じいっとそれを見つめているだけで。
そしてついに顔を背けてしまった。
「もしかして‥おれのことが信用出来ない?」
怖れるような、頑なな横顔。
目を合わせるのも嫌だと言わんばかりの拒絶に、胸を突かれた。
「そう‥だよね、信用なんて出来ないよね‥。ねぇ、君にこんな酷い仕打ちをしたのは、おれの兄さん‥だよね?」
その子は唇を噛むと、瞬きもせずに一点を見つめている。
おれにはとても優しい兄さんが‥この子にこんな顔をさせてしまうほどの仕打ちを‥
どんな言い訳をしても、この子を傷つけて追い詰めてしまったことには変わりないんだ。
おれは‥その弟‥
「ごめんね?兄さんが君に酷いことをして‥ごめんなさい‥」
そんなことでは許して貰えないって思ったけど、今のおれに思い付くことは、これしかなかった。
謝りたい‥兄さんが君を傷つけてしまったこと。
その一心だった。
「‥やめて、謝らないで‥。」
ようやく聞けた声は弱々しくて、床に手を付くおれを見て首を横に振る。
「でもおれの兄さんが、君を‥こんなに‥」
「ぼくが、ぼくが‥いけなかったから‥」
肌蹴た着物の前をかき合わせて、また首を横に振る幼気なその子は、健気にも堪えた涙を見せまいとしていた。