愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第6章 籠鳥恋雲
翔side
滑り込んだ部屋の扉に凭れて、腰が抜けたように座り込んでしまう。
しばらくすると背中に当たる扉一枚隔てた廊下を、兄さんが足音も高く通り過ぎていった。
本当に間一髪‥
乱暴に閉まった重い扉の音に、知らず知らずのうちに詰めていた息を吐き出した。
おれが見たのは幻なんかじゃないよね‥
兄さんの部屋でとんでもない秘密の部屋をみつけて、しかもそこに鎖で繋がれた男の子までいたなんて‥自分の手のひらを見つめて、氷のように冷たかった鎖の感触を思い出して、ぶるりと身震いをする。
鍵の掛けられた暗い部屋。
あの子はいつからあの部屋にいたんだろうか‥?
少し前から時々していた物音は、あの子が鎖を引き摺る音だった。
おれはへたり込んだ扉の前から立ち上がれなくて、まだ信じられない思いで漆喰塗の天井の一角を見上げる。
すると見つめていた辺りから、あの音が微かに聞こえたかと思うと、また別の鈍い音まで‥
兄さん‥何、してるの‥?
あの子が言ってた、『僕はあの方を‥潤様を愛さなくてはいけない‥。』ってどういう意味‥?
いくら考えても、どれもこれも到底理解を超えることばかりで、頭が上手く働かなかった。
壁伝いに聞こえてくる音も、微かにする声もやがて止み‥‥あたりは静寂に包まれる。
もう、眠ってしまったのかな‥?
おれはどれだけの時間そこに居たか分からないほど座り込んでいた場所から立ち上がり、のろのろと寝間へと身体を引き摺るようにしていくと、どさっと寝転んだ。
柔らかな布団が冷えた身体を包み込み、いつもならすぐ寝ついてしまうのに、目を閉じると瞼のなかにあの男の子の顔が浮かび上がる。
兄さんだと思い寄越した物憂げな眼差しは、見たこともないくらい妖艶で、そんな風に見つめられたことのなかったおれは、その瞳が放った色に一瞬息が止まりそうになった。
おれのものとは比べものにのらないほどの細い指先。
小さな果実のような唇から洩れた声は、やさしい唄を聞いているみたいだった。
でも‥‥泣いてた‥
柳眉(りゅうび)も悲しげに縋るような目をして、優しげな頬を透明な涙で濡らしてた。
なのに助けてあげようとしたのに、その手を拒まれてしまった。
「なんでだよ‥」
わからない‥わからない‥
わからないことだらけだよ‥。