愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第6章 籠鳥恋雲
一頻り泣いて我に返ると、不思議なもので今度は空腹の波が襲ってくる。
さっきまで命を絶つことばかりを考えていたのに‥
「もしかして‥お腹空いてるの?」
言われて初めて気づいた‥
そう言えば昨夜から何も口に入れていないことに。
「だったら‥、おれいい物持って来たんだ」
ちょっとごめんね、と僕を胸から引き剥がし、袂を何やらごそごそと探ると、そこから出てきた小さな箱を僕の目の前に差し出した。
「‥な‥に‥‥?」
泣きすぎたせいだろうか‥、喉が引攣れるように痛んで、声が上手く出せない。
「これはね、キャンディーと言ってね、口の中に入れると、とても幸せな気分にさせてくれる、魔法のような食べ物なんだ」
ああ、そう言えば雅紀さんも同じような物を、渡航の際の土産だと言って、僕にくれたことがある。
「ほら、お口開けてごらん?」
綺麗な指が、ビードロのようにきらきらと光る玉を摘んで、僕の口元に寄せる。
でも僕は素直に口を開けることが出来なくて‥
あの男の弟だ、安易に信用してはいけない。
僕の頭の中で警鐘が打ち鳴らされた。
「どうしたの?お腹、空いてるんじゃないの?」
目の前の小さな玉から、逃げるように顔を背けた僕を、潤の弟の団栗のような目が不思議そうに覗き込む。
でもそれは一瞬のことで‥
「もしかして‥おれのことが信用出来ない?」
すぐに不安そうな顔に変り、
「そう‥だよね、信用なんて出来ないよね‥。ねぇ、君にこんな酷い仕打ちをしたのは、おれの兄さん‥だよね?」
今度は悲しげに歪められた。
「あのね、兄さん悪い人じゃないんだ。そりゃ怒ると怖いけど‥でも、本当は心根の優しい人なんだ。‥信じて貰えないと思うけど‥」
信じられるわけが無い。
僕を散々弄んで、その上‥‥
それなのにどうしたら信じられるって言うんだ。
「ごめんね?兄さんが君に酷いことをして‥ごめんなさい‥」
そう言って潤の弟は床に両手を着いて、僕に向かって床に頭が着くくらいに、深く頭を下げた。