愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第6章 籠鳥恋雲
「一緒に‥、ん、はっ‥‥、どうか‥、一緒に‥‥」
熱に浮かされたような熱い吐息‥
俺は一瞬見せられた幻に絡め取られそうになり、誘惑に濡れた腕を解くと、熱く悶える身体を冷たい板敷へと放つ。
大野智は解放できない熱で身体を震わせ、半端に捨てられた戸惑いを俺に向けた。
「どうして、だと?そうだな‥、俺をここまでその気にさせたのは褒めてやろう。だが、まだだ。まだお前は俺を満足させてはいない」
さあ‥どうする‥‥
このまま泣き寝入りするのか‥?
言った筈だ‥俺を愛せと。
脱ぎ捨てたものを一枚、また一枚と身に纏いながら、呆然とする者が、その訳がわかるだろうかと淡々と待つ。
だが‥‥
時間切れだな‥。
乱れた髪をひと撫ですると、その答えの見つけられなかった愚かな者を一瞥し背を向けた。
愚か者め‥
そんなことでは、いつまで経っても俺に嬲られるだけだぞ。
俺は熱の残った息づかいを薄い木の扉で閉じ込めた。
階下の扉の鍵を閉め振り返ると、入り口近くに小さく俯いた澤が立っていた。
静かに立っていた女は、俺が手にしていたものを仕舞うのがわかると徐に顔を上げ、怯えたような目を向けて
「坊っちゃま、先刻の物音は‥?」
少し震えた声を出す。
‥俺に何を言わせたい。
あの男を慰めてやれとでも?
「下がれ‥今宵はあの男に構うことは許さない。」
「しかし、坊っちゃま‥」
「黙れ‥澤。」
俺は同類相憐れむことなど許さない。
色と慾で人の心を操ろうとするお前たちは、それに気がつくまで己の生み出した慾の焔に身悶えながら苦しむがいい。
尚も食い下がろうとする女を一喝すると、逆らえないと思ったのか頭を下げて、静かに部屋を出ていった。
静けさを取り戻した部屋に、微かに鎖の這う音がする。
お前の身体を繋ぐ鎖‥
俺の心を縛る鎖‥
自由になることを許さないそれは、似て非なるもの。
その容易に断ち切れないものの恐ろしさに、ひとつ‥身震いをした。