愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第2章 暗送秋波
雅紀side
饗宴場に近づくにつれ西洋の弦楽の美しい音色にのせて、女性たちの華やいだ声が響いてくる。
「今日も御婦人方は、さぞかし美しく装ってしいるのだろうね‥。許婚(いいなづけ)たちがよく晩餐に出掛けていくのを許したものだな。」
その煌びやかな後腰の膨らんだ夜会服になど興味も無い私は、些か呆れたように呟いてしまう。
自由な時代を謳歌し‥美しい夜会服に身を包み、男たちと手を取りあう彼女たちの奔放さに、こちらが驚いてしまうこともある。
「‥‥そんなこと‥百も承知だろう。繋がりは‥どんなものでも利用できるものは何でもいいんだよ。‥まったく、したたかなものだ。」
私たちの学んでいた学校は勿論男子学生のほうが多いから‥選り取りみどりという訳だ。
潤もそれは織り込み済みなのだろう。
開かれた重厚な扉の向こう‥‥
何度招かれても目を見張るような調度品。
燦然と輝くシャンデリア。
美しい織りのペルシャ絨毯の上には、晩餐会のための食事の準備が整えられている。
学友たちは磨きぬかれた透明なグラスを片手に美しい青芝の庭に降り、大きく開け放たれたフレンチドアから洩れる灯りの中で、晩餐までのひと時を楽しんでいるようだった。
‥‥この宴に何の意味があるのだろう‥
贅の限りを尽くした宴よりも、美しい声で啼き白百合の花弁のような指先で私を惑わす智と紡ぐ時間(とき)のほうが、よほど価値のあるものに思えてならなかった。
‥‥どうしているだろう‥
魔のような夜の闇の中で‥震えているのではなかろうか。
堪え難い寂しさに涙を零しているかもしれない。
暗い闇の中で我が身を抱く智のことが頭から離れなくなってしまった。
「おいおい‥そんな顔するんじゃないよ‥。明るいのが取り柄のお前にそんな顔をさせてしまう御婦人というのは、一体何処の誰なんだ?」
潤は途中で立ち止まってしまった私に葡萄酒の入ったグラスを差し出しながら、冷やかし半分でそう聞いた。
「内緒だよ‥そんなことより弟君はどうしている?もう‥すっかり大きくなったんじゃないのかい?」
これ以上想い人のことに触れられるのは御免だと言わんばかりに、潤が可愛がっている歳の離れた弟君のほうに話を向けた。