愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第6章 籠鳥恋雲
思いもよらない早々の帰宅に慌てる使用人どもを尻目に部屋に戻った俺は、外套を脱ぎ捨てると、柔らかな寝間の枕元に用意してあった洋酒を透明な器に注ぎ一気に呷る。
樽の深い香りと灼けるような熱さを持った褐色の液体が喉を滑り落ち、腹の中から熱を生みだし始めた。
俺はその繊細な細工で光を乱反射する瓶を掴むと、屋根裏部屋の鍵を取り階上への階段を上がる。
そして行き着いた先の簡素な扉を押すと‥
仄暗い闇の中、あの男は‥見たことも無いような微笑み(えみ)を浮かべていた。
こんなうら寒い所で、何を思えばそんな表情(かお)ができるというのだ。
そんな表情(かお)‥
俺に向けたことなど一度たりとも無いだろう!
俺は苛立つ感情の刃先を白く細い喉元に突き付け、満足に奉仕すら出来ず苦しげに美しい顔を歪めた大野智を、冷たい板敷へと突き放した。
「所詮お前は男に媚びることしか知らぬ‥」
そんなものは、たった今、嫌という程見せつけられてきたばかりだ。
所詮お前もそんな人間の中のひとりなのか‥?
媚び諂い、俺の心を操ったような気になっている輩と同じなのか⁈
手荒な扱いに苦しげな息をする横顔に更なる追い打ちをかけると、痛みの為か起き上がれずにいる小さな身体を跨ぎ、肌蹴ていた胸もとを裂いた。
「こわいのか‥?泣いてみるがいい。叫んでも構わないんだぞ‥。」
初めて与えられる仕打ちに、みるみる間に表情を失った獲物をみて、笑いがこみ上げてくる。
「‥そん、な‥‥」
凍りついた表情(かお)で見上げた大野智の目が、薄い水の膜がかかったようになり、唇は艶めきを失っていた。
どうしてくれよう‥‥
胸もとの白い肌の上に指先を滑らせると、そのまま下まで辿って、行き当たった腰紐を引くと、留めるものを失った薄い寝間着は肩を滑り落ち、成熟しきっていない肌を露わにしてしまう。
満ち足りていない月の頼りない光のなかに浮かび上がる白い肌。
「お前は俺をどうしたい‥。」
解いた腰紐を抜くと、突き刺すような視線で露わになった肌に傷を付けていくように視姦する。
「あ、貴方を‥温めて‥」
「口淫ですら満足にできなかったお前に何ができると?」
‥言ってみろ‥‥その唇で‥
偽りの言葉ばかりを吐く、可愛げの無い唇で‥