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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第6章 籠鳥恋雲


潤side


毎夜、華々しく繰り広げられる饗宴。


競い合うように美しく着飾った女達が、思惑を巡らす男どもに手を取られ、蝶のように舞い踊る。

政府主催の晩餐会に招かれた俺は、いくら面倒でも高官の妻たちの相手をしなくてはならない。


それがどんな女であっても‥
必要とあらば、その先まで‥。


松本という家の名に付き纏う輩を遇(あし)らいながら、隙間を縫うようにして意味ありげな視線を寄越す夫人の手を取ると、華麗に流れる円舞曲の輪のなかへと誘う。

「近頃はお忙しくてらっしゃるの?屋敷にお顔を見せて下さらないから‥」

するとよく知った夫人は紅潮させた頬に微笑みを浮かべながら、優雅な調べに夜会服の裾をなびかせ、俺に甘い誘いをかけてくる。

俺が拒まないことを知った上での誘いだった。

「そうでしたね。私としたことが‥こんなにも美しい方が待っていてくれるというのに。」

「まあ‥お上手ですこと。」

俺は誰にでも吐く陳腐な言葉を並べて、その場をやり過ごしていると最高潮を迎えた円舞曲は終焉し‥

「‥近いうちに必ず。」

夫人の指先に偽りの誓いを残して舞踏の流れから外れると、足早に饗宴場の出口へと足を向ける。



どいつも、こいつも‥‥

何故そうも偽りの愛など囁きたがるんだ!



存外に早く饗宴の場を後にしようとする俺の傍に駆け寄ってきた従者に

「気分が悪い‥帰るぞ。」

吐き捨てるように言いうと、開け放たれた扉の外へと出た。


機嫌の悪い俺に慌てた御者に駆られた馬車は、通い慣れた夜道に馬蹄を響かせながら屋敷の門を目指す。

馬車の揺れに身体を預けて静かに目を閉じると、しんと冷えた空気があの男を思い出させる。



鎖で繋いだ、美しい俺の獲物。


俺の内に密かに眠っていた嗜虐の愉しみを呼び起こし、従順なようで思い通りにならない‥

大野智という男。

偽りの愛ばかりを囁き
俺を誑かそうとした罪深い男。

本心から俺を愛すれば欲しいものなどくれてやるのに、いつまでたってもそれの分からない愚かな者。



あの日までは‥
‥‥そう‥思っていた。

だが、それは違った。



俺は捕えているとばかり思っていた獲物に‥いつの間にか自分の心を捕えられていた。



執着という名の太い鎖で、雁字搦めに捕えられていたんだ。
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