愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第6章 籠鳥恋雲
「‥どうして‥」
と、漸く開かれた口から零れ落ちた言葉に、僕は静かに首を振った。
僕にだって分からないよ‥
でも一つだけ言えるのは、
「お願いします‥誰にも言わないで‥」
僕がここにいることを、誰にも知られちゃいけない。
僕を見つけてしまったことをあの男が知れば、きっとこの少年も酷い仕打ちを受けるかもしれない。
もう誰も僕のために傷ついて欲しくはない。
僕が一番残酷なやり方で捨てた、あの人のように‥‥
なのにこの人は‥
「ちょっと待ってて。すぐ外して上げるから」
何かに弾かれたように、僕の足首に巻き付いた鎖を引っ張ると、それをどうにか外そうと、必死の形相を顔に浮かべた。
でも僕は、
「やめて‥!後生ですから‥」
その手を止めた。
僕をここから連れ出そうなんてしないで‥
「‥いいんです。僕はあの方を‥潤様を愛さなくてはいけない‥。自分で選んだことなんです」
ここにいるのは、愛がどんな物かすら知らない僕が、愚かにも偽りの愛で心を弄ぼうとしたから‥
だから僕はその罰を受けなくてはならないんだ。
そしていつか僕の罪が許された時‥
その時は‥
溢れる涙を止めることが出来ずに、それでもなんとか微笑み(えみ)を作ろとする僕の頬に、少年の手が伸びてくる。
でもその手はとうとう僕に触れることはなく‥
窓の外から聞こえてきた馬車の車輪が軋む音と、馬の蹄の音に、一瞬表情(かお)を強ばらせると、
「ごめん‥兄さんが帰って来たみたいだから、ここを出なくちゃ‥」
切羽詰まった物言いで灯りにふっと息を吹きかけ、足早に部屋を出ていった。
「また必ずくるから」
と、言い残して‥
僕は袂で濡れた頬を拭うと、あの少年の手が触れた足首に指先を触れさせた。
あの子の手‥とても温かだった‥
まるで雅紀さんの手に触れられた時のような‥
ううん、それ以上だった。