愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第6章 籠鳥恋雲
信じられない思いで視線を上げると、揺れる橙色の灯りがその人の片頬に影を落とし、涙の流れた跡は薄く光を集めていた。
哀しげな目元には涙の粒が光り、今にも零れ落ちそうになっている。
「‥繋がれ‥て‥る‥どうして‥。」
到底信じられない光景に、聞きたいことは山程あるのに、あまりのことに頭が上手く回らなくて。
すると哀しそうにおれを見ていたその人は、静かに首を横に振り
「お願いします‥誰にも言わないで‥」
と言うと顔を伏せてしまった。
「誰にも言わないでって‥‥どういうことなの?これじゃまるで逃げられないようにされてるみたいじゃない‥。」
「‥仕方ないんです。僕が好きでここに留まっているんですから‥。」
すっかり動揺してしまったおれに向かって、その人は仕方がないんだと涙を零す。
おかしいよ‥
どう考えたって、おかしいよ‥。
人をこんなところに鎖で繋ぐなんて‥正気じゃない!
「ちょっと待ってて。すぐ外してあげるから。」
おれが突き動かされるみたいに細い鎖を引っ張ろうとすると、
「やめて‥!後生ですから‥」
白く美しい手で、布団の上からおれの手を止めた。
「どうして‥?君は囚われているんじゃないの?」
この人が誰かも分からない。
何でこんな処に居るのかも分からない。
分からないことだらけだけど、こんなに冷たい鎖で繋がれてるなんてことがあっていい筈は無い。
だけどその人は
「‥いいんです。僕はあの方を‥潤様を愛さなくてはいけない‥。自分で選んだことなんです。」
そう言って儚げに微笑もうとしたけれど、零れ落ちる涙は止まることはなくて。
あまりにも綺麗で儚げな涙に誘われるように手を伸ばそうとすると、屋敷の外で馬蹄が石畳を蹴る音が微かに聞こえた。
まずい‥兄さんが帰ってきたんだ!
おれが勝手にこの部屋を‥この人を見つけてしまったことが知れてしまえば、逆鱗に触れてしまうことは間違いない。
「ごめん‥兄さんが帰ってきたみたいだから、ここを出なくちゃ‥。また必ず来るから。」
身を固くしたその人が袂で涙を拭っているのが見えたけど、一刻も早くここを出なくてはという一心で、ランプの灯りを吹き消し、来た道を辿って隠し扉の鍵を閉める。
そしてそれを小物入れの箱の中に戻すと、急いで自分の部屋へと滑り込んだ。