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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第6章 籠鳥恋雲



な‥なに⁈


翳した小さな灯りの先に浮かび上がったものは‥こんもりと丸く盛り上がった布団のようなものと、そこからゆっくりと起き上がろうとした、


人!

人がいる!


おれは息が止まりそうなほど驚いて、今度こそ本当に口から心臓が飛び出してしまうんじゃないかと思った。

存在すら知らなかった部屋の中に、まさか人がいたなんて晴天の霹靂としか言い様がなくて、凍りついたように動けなくなったおれに、ゆっくりと起き上がったその人は、俯いたまま

「‥今日はお帰りが早かったんですね‥。」

ほろりと言葉を零す。

そして羽織を肩に掛けながら、伏せていた睫毛を物憂げに上げて、おれの姿を捉えた途端‥‥そのまま表情を凍りつかせて‥


おれたちはお互いに信じられないものを見てしまったような表情(かお)のまま、ずいぶんと長く見つめあっていたような気がする。

「‥きみ‥‥誰‥?」

喉が張り付いてしまったみたいに掠れた声しか出ない上に、何をどう聞いたらいいのか分からない。


だってその人は、見たことも無いくらい妖艶な眼差しをおれに向けたから。

羽織を押さえた指先が白魚のように美しくて、頬にかかる髪が光る絹糸のように繊細で‥おれの心を一瞬で攫っていってしまったから。


どうしてこんなに美しい人が、こんなところにいるのか‥。


するとその人は白魚のような指先を羽織の上に滑らせて、冷たい板敷に手をついて身を乗り出すと、妖艶な光を湛えていた瞳から、はらりと涙をひと筋流した。

はずみで、じゃらりと鳴る鎖の音。

はっとして音のした方を見ると、布団の中から伸びた細い鎖の先が、板敷に打ち付けてある金具に繋がれていた。


これは‥‥どういうこと‥?


おれは持っていた灯りを下に置き、鎖の方に近づいて冷たいそれを手に取ると、手繰りながら布団の中に手を入れていく。

しゃりんしゃりんと鳴る鎖を辿っていき、それが巻き付いていたところは、黙ってそれを見ていた人の細い足首だった。

「なんで‥鎖なんかで‥‥。」

自分が目にしているものが信じられなくて、冷たい鎖を手にしたまま茫然としてしまう。


ここは兄さんの部屋の真上‥

ここに入れるのは兄さんだけ‥



じゃあこの人は‥兄さんの‥‥?



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