愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第6章 籠鳥恋雲
おれがその古い鍵に手を伸ばそうとしたその時、階下にある振り子時計が鳴る音が微かに聞こえ、その手が止まる。
もうそんな時間‥?
慌てて後ろを振り返ってたおれは、柱時計のほうを手にしていた灯りで照らして。
「びっくりした‥。まだ、大丈夫だね‥。」
兄さんは夜会に招かれている夜は、夜更け前まで戻らない。
やっぱり疚しいことをしてる訳だから、ちょっとしたことで心臓が縮みあがりそうになった。
おれはその鍵を摘んで見つけたばかりの木の扉の前に行って、小さな鍵穴にその先を入れて回す。
するとかちりと錠の外れる音がすると、丸い引手が回るようになった。
‥開いた!
本当に開くとは思っていなかった秘密の扉が開いてしまったものだから、その中にあるものを見てみたいっていう誘惑には勝てる訳もなく。
そっと押し開けた扉の中に灯りを差し込んで、どんな造りになっているのか覗き込む。
隠し部屋‥?
隠し階段‥?
真っ暗な中を橙色の灯りが揺れて、不気味なことこの上無いんだけれども‥そこに浮かび上がって見えたのは、簡素な造りの木の階段だけ。
「‥階段だけ?そんな訳ないよね‥。」
もう後戻りする気なんて微塵もないおれは、何があるのか知りたいっていう衝動に突き動かされるままに、その階段を一段ずつ登っていく。
途中、明かり取りの小窓がひとつだけあって、東の空の低いところに満ち足りてない月が昇っていた。
そして最上段の踊り場まで来ると、また薄い木の扉がひとつ。
これ‥隠し部屋だ。
欧州の古い本で読んだことがある。
幸いなことに、ここには鍵は付いていない‥。
おれは大きな鼠が飛び出してきても驚かないように息を止めて唇を結ぶと、そっとその扉を押し開けた。
僅かに鳴った扉の音に首を竦めながら、さっきと同じように手に持っていた灯りを差し込んで、なかを覗くと‥がらんとした板敷の勾配屋根の部屋があるだけで、何も無さそうに見えた。
よかった‥何か飛び出してきたら、どうしようかと思ったけど。
と、肩の力が抜けかけたその時‥暗くてよく見えなかった隅の方で何かが動く気配がして、じゃらり‥と鎖の鳴る音がして‥‥
口から心臓が飛び出しそうなほど驚いたおれは、声が出そうになった口を慌てて押さえると、音のした方に灯りを向けて目を凝らした。