愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第6章 籠鳥恋雲
「なんだ、そうだったのか。おれはてっきり和也は天才なのかと思ったよ」
翔坊ちゃんがくすりと笑う。
「わ、私が天才‥ですか‥‥?そんな滅相もございません‥!」
翔坊ちゃんの突拍子もない一言に、慌てて謙遜すると、今度は坊ちゃんの肩が大きく揺れ始めて‥
俺達は互いに顔を見合わせて笑った。
「でも満更冗談でもないよ、和也。君はとても賢い子のようだから、もっと勉強すると‥あ、もし和也さえ良ければ、おれが和也に勉強を教えて上げるよ。勿論、仕事の合間に、だけどね?」
一頻り二人で笑い合った後、翔坊ちゃんが真面目な顔をして俺の肩を叩く。
「ぼ、坊ちゃんが私に‥?」
「うん、そうだよ?おれでは不満かい?」
「不満だなんて、とんでもない‥。ただ、私みたいな身分の人間が勉強なんてしたって、何の役にも‥」
出来ることなら俺だって‥
同じ年頃の子と同じように学校に通い、読み書きを習いたい。
もっと沢山のことを学びたい。
でも読み書きが出来たって、腹の足しにはなりはしないってことを、俺は幼い頃から散々言われて育って来たんだ。
それを今更‥
「おれはね、こう思うんだ。これからの時代、使用人だって読み書きの一つや二つ出来た方が良い、ってね。だからね和也‥」
翔坊ちゃんが言いかけた時、天井裏からがたんと大きな物音がして、俺達はほぼ同時に顔を天井に向かって上げた。
「今の音は‥?」
「最近ね、たまにあるんだよ、こんなことが‥。もしかしたら大きな鼠でもいるのかも‥」
そう言って坊ちゃんは肩を震わせるけど、俺にはその物音が鼠による物だとはとても思えなくて‥
だって続けて聞こえてきた、じゃらりと言う音‥
坊ちゃんの耳には聞こえていないようだけど、あれは鼠が悪戯して出せる音ではない。
「この上には何が?」
「さあ‥、おれにも分からないけど‥あ、ひょっとしたらどこかに隠し階段でもあったりしてね?ほら、忍者屋敷みたいに!」
まるで楽しいことでも思いついたように坊ちゃんの目が輝くが、俺なはそれがとても冗談とは思えず‥
「古いお屋敷には、あるみたいですよ?隠し階段とか‥後は、地下道とか‥」
俺は智さんの屋敷にも同じような物があったのを思い出していた。