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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第6章 籠鳥恋雲



だけどおれは和也が大事そうに持っている本の表紙を見て‥


「ね‥和也、その本‥どこで見つけたの?」


とてもじゃないけど、彼の給金で手に入れられる物じゃないことに気がついた。

大体、街で見つけたといってたけれど、こんな舶来の本がその辺りに売っていたとも到底思えなくて。

困惑するおれの顔を見て、自分の手元とおれを見比べていた和也は、視線を彷徨わせてしまった。


「ごめん‥怒ってる訳じゃないんだよ?ただ、珍しい本だから驚いただけ。」

しょんぼりしかけた彼の顔を覗きこむ。

「‥この本、そんなに珍しいものなんですか‥?」

少し俯いた和也が様子を伺うように視線だけをおれに向ける。

「うん‥だって舶来ものだもの。おれだって読めない文字しか書いてないし。」

とそこまで言うと、はっとしたような表情(かお)になった彼は、慌てて本を胸に抱いた。


その顔には、どうしようって大きく書いてある。


「咎めてるんじゃないから、そんな顔しないで?誰かに戴いたものなの?」

泣き出しそうになっている背中に手を当てて聞くと、黙って首を横に振る。

「じゃあ、どなたかに借りたもの?」

おれが殊更優しくそう尋ねると、彼はこくりと頷いた。


誰だろう‥

こんな高価な本を貸してくれるなんて。


和也がそんな人物と関わりを持っていたなんて想像もつかなかった。

誰かの使いで他家に出入りすることはあっても、本を貸してもらうなんてことはまず無いだろうし‥。

貸し主を聞いていいものか迷っていると、彼は胸に抱いた本を更に強く握りしめた。


「そんなに大事なものなの‥?」

薄っすらと目に涙を溜めはじめた和也が小さく頷く。


困ったな‥これ以上聞くと泣かせてしまうかも。


「‥わかった。そんな大事なもの、持ってこさせてごめんね。」

おれが務めて明るくそう言うと、弾かれたように顔を上げた彼は

「申し訳ございません!私が嘘なんかついてしまったから‥」

そう深々と頭を下げた。


だから弾みで、ぽとりと落ちた涙には気が付かないふりをした。


「いいよ、誰だって言いたくないことの一つや二つあって当たり前だもの。でも‥その本、面白そうだね。おれも見ていい?」

和也が涙を拭えるよう、すっかり冷めてしまった湯呑に手を伸ばして、ゆっくりとそれを飲んだ。
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