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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第6章 籠鳥恋雲


和也side


雅紀さんの屋敷から、まるで逃げるように松本の屋敷へと戻った俺は、潤坊ちゃんへの報告を後回しにして、自室へと飛び込んだ。


咄嗟のこととは言え、あの風呂敷包みを持ち帰ってしまったことを知られるわけには行かなかったから。


何の意図があってこれをあの人の元に送り付けたのかは、俺には分からない。

でもどうしてもこれを‥智さんに関する物を、雅紀さんの傍に置くことは出来なかった。

もうこれ以上傷付いて欲しくないから‥


俺は風呂敷包みを一旦長持ちの一番奥に仕舞い込むと、その場にへたへたと座り込んだ。


突然走馬灯のように脳裏を過った記憶に、もう立っていることも出来なかった。


「俺‥雅紀さんと‥‥」


そっと自分の唇に指を先で触れてみる。

そこにもうあの人の温もりは残っていないのに、何故だかあの人の唇が触れた時の感触だけが鮮明に残っていて‥


唇を指でなぞりながら、俺は顔がどんどん熱を帯びてくるのを感じていた。


あの人が‥雅紀さんが触れたのは、俺じゃない。

熱に浮かされて、俺の中に智さんの幻を見ただけ‥

それはあの人の胸に包まれた瞬間、に分かった。


それでも俺は嬉しかった。

雅紀さんが、例え俺に智さんの影を重ね合わせていたとしても‥、例え身代わりだったとしても、俺は幸せだった。


心に深い傷を負った雅紀さんを慰めることが出来て、俺は幸せだった。


なのになんでだよ‥‥
なんで涙が出てくんだよ‥

こんなにも心が温かなのに‥‥

涙が後から後から溢れて止まらない。


俺は一体何を期待していたんだろう‥

所詮身分違いの恋。
叶う筈なんてなかったのに‥

雅紀さんの心にはまだ智さんがいて、俺の入り込む余地なんて、どこにもありはしないのに‥


それなのに俺は‥
いつの間に俺はこんなにもあの人のことを‥


諦めよう‥

最初で最後の接吻にはなってしまったけれど、これで良かったんだ‥これで‥‥


俺は着物の袂で涙を拭うと、両の手で自分の頬を叩いた。
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