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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第6章 籠鳥恋雲



私は冷たかった唇が温もりを感じるようになるまで、離すことはできなかった。


『雅紀さんを‥愛していました‥。
貴方の優しさに‥救われたんです。』


そう囁いた智の声が、抱きしめた胸の中にあたたかく沁み込んでいく。


「智‥君は、私の傍にいて幸せだったと‥?」

『はい‥とても‥』


胸に当たる柔らかな頬が冷たい涙を伝せ、寝間着を濡らした。

私は燃えるように熱い身体で、その涙ごと智を温めようと、きつく腕の中に閉じ込めた。


「ああ‥こんなに冷えた身体をして‥今だけは私が温めようではないか。これで‥最後になるのだろう‥?」

『‥はい。』

「そうか‥君は今、幸せにしているんだな‥。」

すると智は胸もとで小さく頷く。



ならば私の役目は終わったのだ‥。

薄紅色の桜の花弁が舞い散る春の日に出会った私たちが過ごした日々は、幸せだったと‥そう思ってくれるのなら‥

私は君を送り出してやらねばならないのだな‥


夢現の私に微笑みかけてくれた智は、出会った頃のように無垢な瞳のまま、そっと唇を重ねた。


ありがとう‥智‥

私も君を愛することができて‥幸せだった


そう伝えたかったのに、深い眠りの底に引き摺り込まれていった私は‥‥

長い‥長い眠りについた。






夕闇が迫る薄暗いなか微睡んでいた私は、ずいぶんと長い夢を見ていたようだった。


ずっと‥もう一度、智に会いたいと願っていた。

無理矢理に仕舞い込んだ慕情は胸の奥底で燻り続け、消えることなどありはしなかった。

智へのそれを断ち切れぬまま、似た年頃の二宮君を微笑ましく思うことは、どこかで私を苦しめていたのかもしれない。


でも夢の中で、智は微笑んでいた。

私の懐のなかで過ごした日々は幸せだったと、愛していたと‥そう言ってくれたのだ。

その思い遣りに満ちたその言葉だけで、私は救われた。


報われた愛が美しく彩りを変えて、さらさらと舞い上がってゆくのが見えた。

それはやがて薄闇のなかに溶け込んでいき、温かな思い出だけが瞼に浮かぶ。

「会いにきてくれて‥ありがとう。」

そう呟いて、瞼のなかのあどけなく笑う君を見ても、涙で歪んでしまうことはなかった。

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