愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第5章 一栄一辱
和也side
夜更け間近、翌日の支度のために再び翔坊ちゃんの部屋を尋ねた俺は、先刻の非礼を詫びた。
謝る様なことをした覚えはないが、俺の態度が潤坊ちゃんの怒りを呼んでしまったのは、明白だったから。
でも心優しい翔坊ちゃんは、
「もう、そんなに謝らないで?今日のは、兄さんの言い方が強すぎただけ。気にすることないよ。和也はおれの世話だけしてくれたらいいから‥困ったことがあったら言ってくれたらいいからね?」
と、逆に俺を気遣ってくれて‥
俺は澤さんが不在であったことを、翔坊ちゃんに告げることを、すっかり失念したまま部屋を出た。
あの優しい人は、澤さんが具合が悪いにも関わらず、言いつけ通りに休んでいなかったことを知れば、きっと心を痛めるだろう‥
これでいいんだ。
廊下に出た俺は、自分に言い聞かせると、階下へと続く階段に足を向けた。
その時、階段を降りる俺の背後で、ぱたりと扉が開く音がした。
かつかつと踵を踏み鳴らす音が、徐々に近付いて来て‥
「お前は確か‥和也だったな」
その声に、俺はゆっくりと振り返り、頭を深々と下げた。
あの闇が支配した目に見下ろされるのは、御免だ‥
「は、はい。私に何か‥」
「使いを頼まれてくれないか?」
「今‥からでございます‥か?」
「いや、今でなくて良い。明日の午前で構わんが‥どうだ?」
俺にこの人の言いつけを断れる筈なんてない。
「私に出来ることでしたら‥」
「なに、友人にある物を届けて欲しいだけだ。猿でも出来ることだ」
俺を猿だと‥?
この人は一体どこまで人を蔑めば気が済むのだろうか‥
それでも従うことしか出来ない俺は、
「でしたら、なんなりと‥。で、あの、どちらまで‥?」
そう答えるしかなくて‥
でも次に返って来た、
「相葉雅紀の屋敷にこの包を届けて欲しい」
その言葉に、一瞬俺の胸が大きく波打った。
あの人に会える‥
陽だまりのように温かな、あの人に‥
俺の心は俄に弾んだ。