• テキストサイズ

愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第5章 一栄一辱


和也side


夜更け間近、翌日の支度のために再び翔坊ちゃんの部屋を尋ねた俺は、先刻の非礼を詫びた。


謝る様なことをした覚えはないが、俺の態度が潤坊ちゃんの怒りを呼んでしまったのは、明白だったから。

でも心優しい翔坊ちゃんは、


「もう、そんなに謝らないで?今日のは、兄さんの言い方が強すぎただけ。気にすることないよ。和也はおれの世話だけしてくれたらいいから‥困ったことがあったら言ってくれたらいいからね?」


と、逆に俺を気遣ってくれて‥


俺は澤さんが不在であったことを、翔坊ちゃんに告げることを、すっかり失念したまま部屋を出た。


あの優しい人は、澤さんが具合が悪いにも関わらず、言いつけ通りに休んでいなかったことを知れば、きっと心を痛めるだろう‥


これでいいんだ。


廊下に出た俺は、自分に言い聞かせると、階下へと続く階段に足を向けた。


その時、階段を降りる俺の背後で、ぱたりと扉が開く音がした。


かつかつと踵を踏み鳴らす音が、徐々に近付いて来て‥


「お前は確か‥和也だったな」

その声に、俺はゆっくりと振り返り、頭を深々と下げた。

あの闇が支配した目に見下ろされるのは、御免だ‥


「は、はい。私に何か‥」

「使いを頼まれてくれないか?」

「今‥からでございます‥か?」

「いや、今でなくて良い。明日の午前で構わんが‥どうだ?」

俺にこの人の言いつけを断れる筈なんてない。

「私に出来ることでしたら‥」

「なに、友人にある物を届けて欲しいだけだ。猿でも出来ることだ」

俺を猿だと‥?

この人は一体どこまで人を蔑めば気が済むのだろうか‥


それでも従うことしか出来ない俺は、

「でしたら、なんなりと‥。で、あの、どちらまで‥?」

そう答えるしかなくて‥

でも次に返って来た、


「相葉雅紀の屋敷にこの包を届けて欲しい」


その言葉に、一瞬俺の胸が大きく波打った。



あの人に会える‥

陽だまりのように温かな、あの人に‥



俺の心は俄に弾んだ。
/ 534ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp