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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第5章 一栄一辱


翔side


もう‥兄さんったら‥

何もそこまで言わなくてもいいのに‥。


『悪いがお前には役不足だ。』


おれですら怖いと思うほどの強い口調で、ぴしゃりと和也を制してしまった兄さん。

和也は、頭から冷や水を掛けられたみたいに体を縮めて、その場に立ち尽くしてしまった。


おまけにおれにまで‥‥

あんなに厳しい表情(かお)を見せたことなんてない。

どうしてそこまで澤に拘るんだろう‥。


兄さんがそこまで澤でなきゃ駄目だって言う理由が、おれには分からなかった。


とにかく‥食堂に行かないと‥。



おれは振り返って、ただでさえ色白の和也が蒼白になって視線を落としたままなのを見つけて

「ここはいいから、澤のところに行って兄さんの伝言を伝えてくれるかな。でも‥あまり無理しないようにって。」

肩を叩くと、少し背中を押す。


でないと、その場から動けなさそうだったから。


「は‥はい‥失礼‥いたしました‥」

細い肩を叩かれて、ふわっと顔を上げた和也は、心許ない足取りで部屋を出ていった。

おれはその背中を見送ると、小さく息を吸って‥重い足取りで食堂へと向かう。



ただでさえ天井高の広い食堂が‥大きな食卓が、沈黙するおれを押し潰してしまいそうだ。


おれは何も言えなかった。

兄さんの命じたことは、父様の言葉に等しい。


心を込めて料理長が作ってくれたものなのに、砂を噛むような思いで胃の中に押し込むと、逃げるように部屋に戻った。




夜更け前、翌日の用を聞きに和也が部屋に来た。


幾分、顔色は良くなっていたけど、すっかり度肝を抜かれてしまったようで、顔も上げられずにいて‥

「驚いたよね‥おれもあんな兄さん、初めてだったから。」

と少し笑って見せた。


だけど和也は

「いえ‥私が差し出たことを言ってしまったばっかりに‥何とお詫びしたら‥‥」

益々肩身が狭そうに小さくなってしまう。


そんなに気にしなくていいのに‥。


「もう、そんなに謝らないで?今日のは、兄さんの言い方が強すぎただけ。気にすることないよ。和也はおれの世話だけしてくれたらいいから‥困ったことがあったら言ってくれたらいいからね?」


そう言って、胸に抱えていた寝間着を受け取ると、明日の用だけ頼んで部屋に帰してやった。

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