愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第5章 一栄一辱
一頻り二人で笑った後、坊ちゃんの願いもあって、夕食までの間、話し相手をすることになった。
普段なら忙しく働いてる時間なのに‥
こんなにゆっくりしたのは、あの人の屋敷以来だ。
「あ、あの、一つお聞きしたいんですが‥」
俺は思い切って切り出した。
「なんだろう、おれで分かること?」
「いえ、大したこたとじゃないんです。ただ、俺‥潤坊ちゃんのことが良く分からなくて‥その、お人柄というか‥」
俺の問に、目の前の翔坊ちゃんの目が丸くなる。
でもその目はすぐに細められて、小さく首を捻ると、
「どうして?そんなこと知ってどうするの?」
「澤さんの代わりってことは、当然潤坊ちゃんのお世話も‥ってことになりますよね?だからその‥」
一瞬見せた怪訝そうな顔に不安を感じた俺は、慌てて取り繕う言葉を並べた。
「ああ、なるほどね。そうだな、兄さんはおれにはとても優しいよ。でもね、おれ以外の人には、とっても厳しい面もお持ちだから、そこは気を付けた方がいいかもね。あ、あと、これはここだけの話なんだけど‥」
周りに人なんていやしないのに、俺の耳元に手をかざすと、とても小さな声で、
「真夜中に叩き起されることもあるみたいだよ?」
「真夜中‥ですか‥?」
「そんなだから、澤は倒れてしまったのかもしれないな」
そんなことが‥
「あ、でもおれが言ったなんて言わないでよ?俺も他の使用人が噂してるのを小耳に挟んだだけなんだから」
「え、ええ、勿論です」
俺は胸を拳で叩くと、壁にかかった時計に視線を向けた。
「そろそろ夕食の時間じゃ‥」
「本当だ。兄さんが呼びに来る前に、急いで着替えないと‥。和也、手伝って?」
見れば、坊ちゃんはまだ学生服のままで‥
俺は坊ちゃんの指示を受けながら、着替えの準備をすると、飲み終えた湯呑みを盆に乗せた。
その時、部屋の扉をこんこん‥、と叩く音が聞こえた。