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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第5章 一栄一辱


「そんなにおれが怖い?手が震えてるよ?」


違う‥
この人のことを、“怖い”と思ったことなど、一度たりともない。


俺が本当に怖いと思っているのは、寧ろこの人のお兄さんの方だ。


翔坊ちゃんは優しいから‥
それにどことなく‥だけど、雰囲気が智さんと似てるようにも感じる。

顔立ちとかは全然違うのに‥


そんな人だから、俺の緊張を和らげようと、揶揄うっているんだ、ってことも‥


「揶揄わないで下さい。急なことで、口から心の臓が飛び出そうなんですから」


俺は俯いたまま、ぎゅっと瞼を閉じた。


それからは、何を言われても終始上の空で‥

漸くお茶を淹れ終えた俺は、安堵のせいか小さく吐息を洩らした。


でも、


「あっつ‥」


湯呑に口を付けた瞬間に上がった小さな悲鳴に、俺の肩がびくりと上がった。


「あっ‥申し訳ございません!」


咄嗟に謝罪の言葉を口にし、頭を深々と下げる。


失敗してしまった‥
これでもし暇でも出されたら‥

せっかく神様が与えて下さった、絶好の好機なのに、俺は何てことをしてしまったんだ。


一瞬、不安が脳裏を過ぎった。


でも、俺のそんな不安を感じ取ったのか、


「猫舌だから。次からは温めにしてくれるかな」


湯呑みを置いて、俺の肩を叩いた。


ああ、やっぱりこの人は優しい。

こんな風に優しくされると、ついあの人のことを思い出してしまう。

あの人の広い胸と、包み込むような大きな手を‥


「固くならなくて大丈夫」
「いつも通りにしてよ」

言う事まであの人と同じだ。

でもこの人は、あの人とは違う。

それに智さんの居場所を突き止めるまでは、一度の粗相だって、俺には許されないんだ。


「本当に急なことで‥どうしたらいいのか、見た目通り気が小さいもので‥」


困ったように眉を下げて笑う坊ちゃんに、わざとおどけたような笑顔を向けると、それに釣られたのか、それともそれまで辛抱していたのか、坊ちゃんも声を上げて笑い出した。
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