愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第5章 一栄一辱
色の白い和也は耳まで赤くなっていて、見ていて少し可哀想なほどだった。
「今更‥そんなにおれが怖い?手が震えてるよ。」
おれはいつもとは調子の違う、神妙な面持ちをしている年若い世話役の強張りを取ってあげようと思っただけなのに、それを聞いて益々耳を赤くして俯いてしまう。
そして消え入りそうな声で
「揶揄わないで下さい‥急なことで、口から心の臓が飛び出そうなんですから。」
というと、ぎゅっと目を瞑った。
面白い。
「着物も新しくしてもらったの?」
「‥‥はい‥つい先刻‥」
‥折り目が新しいから、
きっと、着替えさせられたんだ。
「よかったね。」
「‥はぁ‥‥」
おれがいくら話し掛けても、気の抜けたような返事ばかりを繰り返す和也。
そして、ようやくぎこちない所作でお茶を淹れることができた彼は、安心したように細く息を吐いた。
いつもと顔を合わせる場所が変わるだけなのに、こうも緊張しなくても良さそうなものを‥。
おれは和也の顔を見ながら努力の賜物を片手に取ると、温かいそれに口を付けた。
だけど
「あっつ‥」
何気なく口に含んだものの熱さに飛び上がりそうになって、思わず声を出してしまった。
「あっ‥申し訳ございません!」
それに驚いた彼は慌ててしまって‥
「いや、いいよ‥おれ、猫舌だから。次から温め(ぬるめ)にしてくれるかな。」
苦笑いしながら湯呑みを戻したおれを見て、益々小さくなってしまった肩を叩くと、和也はおでこと膝がくっ付いてしまうんじゃないかと思うほど、深々と頭を下げた。
「もう‥そんなに堅くならなくて大丈夫だから。おれ、兄さんよりは優しいと思うよ?だから、今まで通りにしてよ。」
でなきゃ、和也を呼んだ意味が無くなってしまう。
「はぁ‥本当に急なことで‥どうしたらいいのか、見た目通り気が小さいもので‥」
そう照れたように少しだけ笑った和也につられて、おれまで笑いが洩れてしまう。
そうして目があったおれと和也は、どちらからとも無く、くすくすと笑い出してしまった。