愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第5章 一栄一辱
潤side
お前にはできまい‥
冷たい板敷の上で噎せる姿に興が醒めてしまった俺は、欲しがったものすら満足に受け止められない男を嘲笑った。
そんなことでは俺から何かを奪うなんて、夢のまた夢。
淫欲に踊らされ、俺の餌食となるだけだ。
俺は打ち拉がれたように伏せた美獣の顎を取り、憐れみを込めて口元を伝う慾の残渣を拭った。
「くくく、無理をするな。俺を謀ろうとしても無駄だ。だがしかし、俺をここまで追い詰めたことだけは褒めてやろう」
受けた仕打ちに屈辱の色を隠しきれない頬に、更に追い討ちをかけるように刃を向けかけたが‥
このまま易々と、とどめを刺してしまうぐらいなら‥いっそ‥
乱された着物を直し立ち上がった俺の足元に、震えながら縋る男から、奪えるものは他に無いかと値踏みをするように、冷たく見下ろす。
「俺が欲しければ、俺を愛せと。お前のそれは、愛などではない。ただ慾を弄んでいるだけだ。それでは女郎と同じではないか?」
色と欲で雅紀の心を弄び、捨てたお前に愛など分かるはずもない。
恐らく心優しい友は、全身全霊をかけてお前を愛しただろう。
その純粋な心まで、くれてやったに違いない。
だけど愛の何たるかも分からないお前には、それが分からなかった。
所詮‥‥お前は俺に奪われるだけなのだ。
ならば‥奪ってやろう。
心を寄越さないというなら、ただひとつだけ持っている‥慾をな。
お前が目覚めさせた俺の内なる獣物‥その嗜虐の歓びを満たさせ、息絶えていく姿を愉しませてもらおうじゃないか。
俺は繋がれた鎖を解くことも出来ず、幼さの残る頬に涙を纏わせ、憐れに取り縋る男の手を払う。
すると、その頬からは辛うじて保っていただろう微笑み(えみ)が消え、力無く落ちた手の先が白くなるほどに、ぎりりと板敷を掻いた。
「愛が何なのかも分からぬ輩と沿うつもりはない。まずは愛するという事がどういうことか、良く考えるんだな」
時間はたっぷりとあるんだ‥。
俺とお前の時間は‥
その答えが見つけられないお前が、
息絶えるまでな‥