第5章 一栄一辱

妖艶さを纏った大野智は、自分の指先を視線で辿りながら、首筋を這わせていたそれを襟元から忍ばせる。

それを懐のなかでゆっくりと彷徨わせながら、もう片方の手で男帯の結いを解こうとしていた。


俺は冷めた目で、その拙い手管を見下ろす。


板敷に足を崩している男はようやく解いた帯を落とすと、片膝をついていた俺の着物を割り開く。


「どうしようというのだ？」


はらりと開いた着物のなかを見て、僅かに躊躇いをみせた頬を揶揄すると、視線を上げた美しい男は微かに笑って、俺の胸に唇を当てた。

片方の手は淫欲を誘うように肌を弄り、乾いた唇は快感を与えようと淫らな口付けを繰り返す。


それはそのあたりにいる遊女や蔭間ですら、容易に施してしまうようなもので、飽き足りるほど見てきた。

そしてそれが愛するというものとは程遠いものだということは、嫌というほど知っている。


俺は『愛したい』と言った男の欲しがるままに、身体をくれてやった。


やがて、淫らに動いていた手は、柔らかいままの俺の物まで辿りつくと、それを両の手で包み、ゆるゆると快感を施していく。


「お前は、そんなものが欲しいのか。」


少しずつ形を変えていくそれを見つめている憐れな者に、言わずにはいられなかった。


すると膝まづくようにしていた大野智は、顔を上げて唇の端を少し上げて

「貴方の全てが欲しいと言ったでしょう？この身体も‥そう。」

そう言うと、手に包んでいた俺の物に舌を這わせ、赤い唇のなかに埋もれさせていった。



赤い唇と拙い舌が、身体のなかに流れる慾を少しずつそこに呼び寄せる。


そして徐々に力を持っていく俺の物は、欲の捌け口を探しはじめていく。


‥こんなもののために。


「そんなもの‥いくらでもくれてやる。その程度でよければな。」


いくら拙い口淫でも時間さえ掛ければ、いくらでも慾をかき集め、吐き出させることができる。

俺はそこに流れ込んできた慾を、躊躇うことなく小さな咥内に吐き出した。


「‥っ‥げほっ‥げほっ‥っ‥」


途端、咥内で放たれた慾を受け止めてきれなかった小さな身体は、激しく咳き込み板敷を這った。