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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第5章 一栄一辱



階段の最上段にある簡素な木の扉をゆっくりと開くと、鎖に繋がれた男は壁際に添うようにして、静かに眠っていた。


天頂近くまで昇った細い月が、明り取りの窓から白く細い筋を伸ばし、部屋の真ん中に四角い影を落としている。


ほんのり暖まった暗い板敷の上に横たわる美しい獣は、束の間の夢と戯れているのだろうか‥?



近づいても目覚めることの無い男の顎に、そっと指を掛ける。

誘惑を囁き、淫欲を強請る薄く開いた唇からは微かな寝息が洩れ、その顔は無垢で安らかだった。



‥お前は何故、俺に近づいた‥?

どうしてこうまでして、俺を欲しがる?

‥‥‥俺の何が欲しいんだ‥‥?

俺はありとあらゆる物を手にしてきた。

お前はその中のどれが欲しいんだ?



‥‥‥教えろ。


でなくば、俺がお前の持っている物を奪うだけだ。



「‥‥起きろ。」


白い顎から手を離すと、その安らかな眠りから引き摺り出すような、冷たい言葉を投げかける。

するとふるりと身体を震わせた獣が、ゆっくりと目蓋を持ち上げて、その瞳で俺を捉えた。


「‥夢の続きが見たいか?」


まだ微睡みのなかにある瞳にそう問いかけると、男は一度静かに目を閉じ‥開いたその目には、見事なまでに妖しい色を纏わせて、

「‥‥見たい‥貴方と‥」

そう誘惑の言葉を囁いた。


「ほう‥お前はどんな夢を見せてくれるんだ?」


‥‥俺は夢など見ない。


なかば嘲るような言葉をするりと躱した大野智は、ゆらりと身体を起こすと、白く細い手を伸ばし、俺の頬に触れる。


「どんな‥夢でも、貴方が望む夢を‥。」


そう言って妖しい焔を揺らす目を細めると、乾いた唇を少し開いて、俺のそれに重ねた。

そして、ゆっくりと離れていく。


「‥何の真似だ。」

「僕は貴方を愛したい‥ただ、それだけのこと。」

「それがこの口付けだと‥?」


たかが口付けひとつで‥愛するだと?


「だって貴方は、僕に触れようともしてくれない‥いつも身体を乱されるばかり。」


俺の頬に触れていた細い指を、そのままゆっくりと首筋に這わせながら、吐息混じりにそう呟く。


「‥‥だから今度は、俺を乱してみようと思ったのか‥?」



どこまで浅はかなんだ‥‥

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