愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第5章 一栄一辱
潤side
翔と2人きりでの夕食を終え、夜が更けるのを待つ。
暖炉の中でゆらゆらと揺蕩う焰は、手の中にある赤い液体をより味わい深いものにした。
喉を流れ落ち、身体を熱くするそれを口に含むと、静かに目を閉じる。
俺は時々、あの揺らめきのなかに身を投じてみれば、どうなるだろうかと思うことがある。
何もかもを焼き尽くす焰。
理性も本能も‥夢も絶望も。
それは心地よいものだろうかと‥。
全てを焼き尽くして‥灰になり、全てが終わる。
‥‥本当に終わるのか‥?
‥‥‥。
馬鹿馬鹿しい。
そんなもの‥俺には必要ない筈だ。
俺は欲しいと望むものは、全て手に入れてきた。
生まれ落ちたその日から、松本家の長子というだけで抱えきれないほどの物を与えられ続けてきたのだから。
高価な物も、莫大な財力も、恐ろしいほどの権力も‥
‥それに群がる卑しい者たちも。
けれど望まなくても手に入るそれらは、何一つ俺を満足させない。
そしてそれは更なる欲望を生み狂気へと導いていく。
あの男もそうした卑しい者たちの一つの筈だった。
だが、あの男のなかに潜むもの。
自分を愛する者を捨て、恥辱にまみれてもなお妖艶に笑ってみせる狂気にも似た焰。
見たこともないそれは、俺のなかで眠っていた獣物を揺すり起こし‥本能を目覚めさせた
鎖で縛りつけておきたくなるほどの‥‥
自分の本能を縛る、美しい獣。
俺は身体のなかで微かな疼きを感じ、ゆっくりと目を開けた。
目の前の揺蕩う焰は、目覚めた本能を煽るかのように揺らめいている。
手の中で温まった芳醇な香りがのする赤い液体を片手に、美しい獣の繋がれた部屋の鍵を手にする。
冷たい手触りのそれは、身体のなかの疼きをよりはっきりとしたものに感じさせた。
淫靡な欲を剥きだしにする美しい獣は、俺の望む物を差し出すのだろうか‥。
それとも‥そのまま欲に呑まれて‥‥
息絶えるのだろうか。