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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第5章 一栄一辱


智side


月明りだけが差し込む暗く冷たい部屋で、膝を抱え、背を丸めていると、どこからともなく暖かい空気が流れ込んできて…

僕は手探りで壁を伝うと、一際熱を感じられる場所を探り当て、そこに背を預けた。


温かいな‥


雅紀さんの所にいた時は、寒さを感じることなんて、一度だってなかった。

いつだってあの人は僕を、まるで壊れ物でも扱うように、大切にしてくれたから‥

それに比べて今はどうだ‥

自分が今どこにいるのかも分からず、逃げようにも足は鎖に繋がれて‥

身体の奥に溜まった欲望すら満たされない‥

これが本当に僕が望んだことなのか‥‥

違う‥。


あの男は言った、

「俺を愛せ」と‥‥


ならば愛してやろうじゃないか。
あの男が望む通りに、愛してやる。

そして手に入れるんだ、あの男の‥松本の全てを‥

僕は腹立ち交じりに投げつけた、あの男が残して行った羽織を拾い上げ、薄い生地の着物の上に羽織った。


雅紀さんが掛けてくれた物よりも、うんと上等な生地で出来たそれは、ふわりと軽くて‥僅かにあの男の匂いがした。



ぎしぎしと、木の軋む音が聞こえた気がして、僕は閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げた。


どうやら背中に感じる温もりがあまりに心地よくて、うたた寝をしていたらしい。


扉が外から叩かれ、錠を外す音だろうか‥金属音が響いた。


「食事だよ。あと、これは身体を清めるためにお使い」


背中を軽く丸めた老婆が、手にした膳と、濡れた手拭いを僕の前に置いた。


「いつもありがとう‥」


僕は小さく礼を言うと、まだ湯気の立ち上る手拭いを手に取り、恥じらうことなくそれを太腿に宛がい、自身が吐き出した物の痕跡を拭き取った。


「今度は湯浴みの準備でもしようかね?」


もう一枚の手拭いを手に取ると、僕の背中を軽く擦りながら、老婆が嗄(しわが)れた声で言った。


「それはとても有難いことだけど、彼が‥あの人が許してくれるだろうか‥」

「あの人‥とは、潤様のことかい?」


心なしかさっぱりとした背中に着物を着せ付け、その上から羽織を掛けると、老婆は板張りの硬い床に両膝を着いて座った。
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