愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第5章 一栄一辱
潤side
『欲しい‥貴方の全てが‥‥』
そこら辺の男ならすぐに堕ちてしまうだろう淫らな色と、底知れぬ欲に濡れた瞳で俺を見上げた大野智という男。
それを隠そうともせずに、拙い手管で仕掛けてくる男が面白いと思った。
遊女のような仕草に見え隠れする躊躇いが、そう見せているのかもしれない。
魅惑的な赤い液体で未熟な身体に灯った焔を煽られ、情欲にまみれ‥屈辱を与えられたにも関わらず、妖艶に笑ってみせたあの男を、どうしてくれよう‥。
俺に群がるいやらしい連中のように、欲しがるものを与え、骨抜きにしてやるか。
それとも悶え苦しむ身体を弄び、俺の中で目覚めた獣物の餌食にしてしまうか。
大野智が淫楽に溺れ俺をせがむ度に、言葉にできないほどの支配欲ともつかないものに覆い尽くされていくのを感じた。
従順なようで、思い通りにならないあの男を、どうすれば‥
いとも簡単に淫欲にのみ込まれ、その欲を満たそうと蠢くしなやかな身体を眺めながら、次なる余興は無いものかと思いを巡らせていく。
薄暗く冷えた空気が漂いはじめて‥階下から響いていた美しい歌声が途切れた。
そして静まり返った板敷の部屋の中には、熱く乱れる吐息と卑猥な水音‥そして鎖が床の上で這う緊縛な響きだけが残った。
俺は自分の欲をいまだ満たせない可哀想な男に見切りをつけ立ち上がると、着物を肌蹴させたままの男は息を乱し、どうすれば己れの欲を満たしてくれるのかと取り縋った。
どこまで‥俺を愉しませてくれるんだ?
「私が欲しくば、私を愛せ。お前が心から私を愛するというのなら、私も考えてやらんことはないが‥どうだ?」
俺は薄闇に浮かぶ赤く濡れた唇を指でなぞりながら、情欲だけを見せる大野智から微塵も感じないそれを寄越せと‥憐れな瞳にそう告げた。
すると俺の言葉が余程意外だったのか、それまでの妖しい色を瞬時に消した男は、驚きに目を見開いて、美しい唇を震わせた。
さあ‥どうする‥‥?
色と欲で男を弄んできたお前にそれが出来るのか?
お手並み拝見といこうじゃないか。