愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第5章 一栄一辱
身体に溜まっていた熱が、まるで引き潮のように冷えていく。
「ど‥して‥‥、貴方はいつも‥」
今にも闇が支配しそうな部屋から去ろうとする足元に縋りつき、欲に満ちた目で見上げる。
すると男が膝を折り、僕の顎に手をかけた。
そして息がかかる程顔を寄せると、
「そんなに私が欲しいか?」
「欲しい‥貴方が‥‥」
お前の全てが‥
僕から奪っていった物全てが欲しい‥‥
「ならば小賢しい真似はいい加減辞めろ。私は雅紀のように、簡単にお前の手に落ちる程、易くはないのでな」
「で、ではどうしたら‥、どうしたら貴方を下さるのですか?」
「そうだな‥‥」
顎にかかった手が、僕の唇の輪郭をなぞる様に撫でる。
そしてふっと息を吐き出すと、その双眸を獣のように光らせ、
「私が欲しくば、私を愛せ。お前が心から私を愛するというのなら、私も考えてやらんことはないが‥どうだ?」
僕が‥?
この仇とも言うべきこの男を‥?
馬鹿な‥‥愛せる筈がない。
この男を愛するくらいなら、自ら命を断った方がずっとましだ。
「すぐには答えが出せないか?まあいい‥、時間は飽く程あるのだからな。じっくり考えるがいい」
僕の顎にかかった手を解き、男がスっと立ち上がる。
そして着ていた羽織を脱ぐと、僕の肩に投げ掛けた。
「ここは冷えるからな‥それでも着ていろ。風邪でも引かれては、私の愉しみがなくなるからな‥」
そう言って男は部屋を出て行った。
なんて酷い男‥
僕をここまで侮辱するなんて‥許せない。
ギシギシと木の軋む音を聞きながら、僕は怒りに震える拳を薄く硬い布団に叩きつけ、肩に掛けられた羽織を、たった今男が出て行った扉に投げ付けた。
松本潤‥
僕はお前を許さない‥
例え本当の敵が別にあったとしても、僕は決してお前を許さない。
僕にこれ程までの屈辱を与えたお前を‥
すっかり夜の帳が落ちた部屋で、僕は布団を頭から被って身体を丸めた。
寒いよ‥
寒くて寒くて、凍えそうだよ‥
誰か僕のこの冷えた心と身体を温めて‥
和也、早く僕を見つけて‥