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ハリー・ポッターと純血の守護者

第9章 【心の声】


 言いかけたところで、またクリスの悪い癖が出てきた。もしここにハリー達がいたらどんな反応を示していただろう。1年前の再来のようにクリスは召喚の杖を抱き寄せ、うっとりとした眼差しで杖をなでると、赤い唇をうっすらと開いた。

「これは呪われた杖でしてね、魔王サタンの呪いがかかっているんですよ。手にした人間は魔力と引き換えにその魂を少しずつ吸い取られ、最期にはサタンの生贄として永遠に地獄をさまよう事になるんです」

 黒い髪がサラリと目にかかると、クリスはゆっくりと髪をかき上げ、紅色に光る瞳を少し細めロックハートを見つめた。もしここでハグリッドが止めていたらこれから起こる大惨事には至らなかっただろう。しかし彼は止めるのが少し遅かった。
 クリスが満足そうに顔をゆがめると、ロックハートがぷるぷる震えだした。

「そっ……それはっ……」
「分かったら先生も、この杖には触れない方が――」
「――それはっ!何たる“悲劇!”このようにか弱い生徒が魔王サタンの呪いにかかっているなんて!なんて邪悪な杖なんだ!よろしい、私が早速その杖にかかった呪いをといて見せましょう!!!」

 言うや否や、ロックハートはクリスから召喚の杖を奪おうと掴み掛かってきた。まさかこんな展開になるなんて思っても見なかったクリスは、ロックハートの奇行に一瞬我を忘れながらも、奴から杖を奪われないよう必死になって抵抗を続けていた。

「いいっ、いらない!お前の手なんか借りたくもない!」
「ああっ、そのかたくなな態度!可哀想にもう魂の一部をサタンに持っていかれてしまったようですね。分かっていましたよ、だからこその私に対する貴女の日ごろの態度。あれは内なるサタンが私を遠ざけようとしていたのですね!」
「遠ざけるのは貴様の腐ったコロンだけで十分だ!!」

 1本の杖を介し、今や意地と意地のぶつかり合い。いや、クリスにしてみれば己の命をかけた攻防戦だといっても良かった。母の形見であり、世界で唯一の召喚の杖だ。クリスにとってそれは命より大切なものであった。それがこの男の手に渡ったが最後、杖がどんな目にあうのかわからない。何せ相手はピクシー妖精1匹すら満足に片付けられなかった男だ。
 そう思うとクリスの細い体からどこからともなく馬鹿力が湧いてきた。
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