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ハリー・ポッターと純血の守護者

第3章 【常闇のノクターン】


「7、8、9――…クリス?」

 不意に来客を知らせる鐘が鳴り、ドラコは後ろを振り返った。しかしそこには客の姿も、後で震えていたはずの許婚の姿もない。がらんとした店内を、ドラコは静かに見回した。

「――あっ!あいつ!!」

 まんまと逃げられたという事に気づいた時には、クリスはもう店の角を曲がった後の事だった。

* * *

 せっかくドラコから逃げ切れたと言うのに、肝心のハリーの姿がどこにも見当たらず、クリスは額に嫌な汗を浮かべた。この通りは独りで歩くには、ましてハリーには危険すぎるのだ。
 必死になって近くの通りを探してみると、ハリーは道端でこじきのような格好をした老婆に捉まっていた。声をかけようとして、クリスはとっさに思いとどまった。

「ハー……ハワード!!」

 ここでハリーの名前を出すのはまずい。名前ではなくクリスの声に反応して振り向いたハリーを、有無を言わさず老婆から引き離して自分の後ろへ隠した。ハリーのことだ、絶対に“ここでの自分の立場”に気づいていないだろう。余計なことを言い出す前に、クリスは早口で捲くし立てた。

「まったく、ローブの採寸が終わったら大人しく待っていろってあれほど言ったじゃないか!父さんも母さんも心配してるんだぞ!」
「え?父さ……母さん?あ、あの?クリス?何のこ――」
「まだ教科書も買い終わってないんだ、怒られるのは私なんだから!」
「まあまあ、そう怒鳴りなさんな。ほうら、すっかり怯えてるじゃないか」

 その様子を見かねた老婆が口をはさんできた。老婆は頭からすっぽりと真っ黒なローブを被り、せいぜい露出しているところと言えば、シワだらけの口元と指先のみ。おまけに何に使うのか人間の生爪をいっぱい乗せた盆を手にして、いかにもノクターン横丁らしい、不気味な雰囲気が漂っている。

「あんたはこの子の姉さんなのかね?」
「いや、あ、えーっと?……うん」
「御覧の通り、目をはなすとすぐ迷子になる弟で困ってたところなんだ」
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