第3章 【常闇のノクターン】
何とかハリーも話を合わせてはくれたが、身長もハリーの方が少し大きければ、顔立ちも全然似ていないので姉弟という設定には少し無理がある。2人の顔を見比べようとする老婆を、クリスが威嚇するようにキッと睨み付けると、何を思ったのか目深にかぶったローブの下から視線を合わせ、老婆はしゃがれた声で嬉しそうに話した。
「あんた面白い眼をしているねえ。弟さんの傷といい、本当に面白い姉弟だ」
クリスの背中で、ハリーが前髪ごと傷を押さえるのが分かった。ハリーを庇うように、クリスも1歩後ずさる。老婆が笑うたびに、振動で盆の上の生爪がカタカタと鳴った。
「ち、違うんだ。これは、小さいころに自分で傷つけたんだよ」
「おやおや、違うって、何が違うんだい?」
「それは、その……」
「へえ、あんたも綺麗な眼をしてるねえ。2人で赤と緑で対になって……ぜひ儂のコレクションに加えたい。どうだいあんたら、どっちか一つ手放してみないかい?いい値で引き取るよ」
「冗談、あと一つ余分にあったって売り払うものか。ハワード、行こう。父さん達が待ってる」
クリスはとっさにハリーの手を取った。心臓が早鐘のように鳴り響き、頭の中で何かが早くここから離れろと警告している。明らかに取乱す姿を見て、老婆が意地悪くにやりと口を曲げた。
「そうかい残念だねぇ、金に困ったらいつでもおいで。ここはいつでも――あんたらを歓迎するよ」
老婆はあごを上げ、ローブの下に隠された顔が見えるようにした。しかし眼のあるはずの所には何もなかった。ただ窪んだ黒い穴が、2人を覗いていた。
背筋に走った寒気、それが走り出す合図だった。甲高い、引きつったような笑い声が聞こえなくなるまで、クリス達は早足で通りを抜けた。