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ハリー・ポッターと純血の守護者

第3章 【常闇のノクターン】


 ドラコの質問をかわしながら、クリスの視線は展示用のガラスケースに注がれていた。それが巧い具合に反射して出入り口の様子を映しているのだが、ドラコは全く気づいていない。クリスは後ろ手でハリーに合図を送った。

「頼むよ、すぐに済ませるからさ」
「そんなこと言って、本当は父上から逃げたいだけだろう。けど駄目だ、怒られるのは僕なんだぞ」
「大丈夫、急いでおじ様に見つかる前に帰ってくるから」

 ついにガラスケースにハリーの姿が映った。こちらの様子をうかがいながら、逃れるタイミングを計っている。ゆっくりとドアに近づき、ハリーは身をかがめたままノブに手をかけた。
 あと一息――その土壇場になって、クリスはやっと最大の難点を思い出した。ガラスケースに映る出入り口、その上についた来客を知らせる小さな鐘を。

(・・・・・・ばっ!)

 万事休す、こちらに気を使いすぎたハリーは鐘の存在に気づかずドアを開けてしまった。声を発する間もなく、途端に店内に響く甲高い鐘の音に、反射的にドアの方を振り返ろうとするドラコ。そのコンマ1秒の時間の中で、考えるよりも先にクリスの体は動いていた。

「だだだ駄目だあぁ!!」
「う、わっ!」

 気が付けば、振り返らせまいとクリスは背後からドラコを羽交い絞めしていた。ドラコが突然の事に動揺して身体を硬直させたのを良いことに、クリスはその体勢のまま店の外に目を向ける。見れば窓の外からハリーが心配そうな顔でハチャメチャなジェスチャーをしていたので、クリスはあごで早く店から出るように促した。

「クリス……これは、いったい――」
「喋るな!」
「えっ!?」
「黙って……い、いま後ろの鏡に、血まみれの女の顔が映ってたんだ……」

 もちろん嘘だ。そもそも後ろに鏡なんてない。しかしそれを聞いたドラコは、硬直させた身体をより強張らせた。店が店なだけに、信憑性だけは十分ある。

「振り向くなよ、そのまま黙って目を瞑ってて」
「わ、分かった」
「そしてゆっくり10秒数えるんだ。1、2、3――」
「4、5、6――」

 クリスはドラコの体からゆっくり腕を解くと、気づかれぬように召喚の杖を拾って、そのまま後ずさりして出入り口へ向かった。
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