第30章 【祭りの前に】
「実は――ロックハート先生は、『秘密の部屋』に行く途中……忘却術を掛けようとして、呪文が逆噴射しちゃったんです……」
「なんと!己が剣に貫かれたか!」
「つるぎ?私は剣なんて持っていませんよ、持っているのはこの子でしょう」
と言って、ハリーを指さし、また回転式の椅子に座りくるくる回って遊び始めた。クリスの治療を終えたマダム・ポンフリーが、今度はロックハートを診ようと、丸椅子からロックハートを立たせ、医務室の奥へと移動させた。しかし、あそこまで頭がいかれてしまっては、元に戻すのも一苦労だろう。
「さあ、3人とも寮にお帰り――と言いたいところなんじゃが――ハリー」
突然ダンブルドアに名指しされて、ハリーはびっくりして背筋をピッと伸ばした。
「すまんが、もう少しわしの話に付き合ってもらえないかね?」
いいえと言えるわけもなく、ハリーはダンブルドアに従って医務室を出て行った。
取り残されたロンとクリスは、ハリーが戻ってくるまで談話室で待つことにした。ここまで来て、ハリーだけダンブルドアと密談なんて羨ましすぎる。ハリーが戻ってきたら、根掘り葉掘り全て話してもらうつもりだった。
「いったい、2人は何を話しているんだと思う?」
「さあ?でも2人っきりで話なんて怪しすぎる」
ロンがふわふわのクッションを抱きしめながら言った。クリスはソファーにうつ伏せで寝ころびながらハリーが帰って来るのを待っていた。『秘密の部屋』に入ったのはハリーだけではない筈なのに……。なんだかちょっと疎外感を感じていると、ロンが突然話しを持ち出してきた。
「ねえ、そういえばあのバジリスクだけど、いったいどうやって倒したの?」
「ふっふっふ、それはもちろん、『これ』だよ、『これ』」
そう言って、クリスは召喚の杖を自慢げに見せびらかした。
「えっ!それじゃあ今回も、精霊を召喚したの?」
「その通り、今回召喚したのは炎の精霊、サラマンダーだ!」
「いいな~、僕も見てみたかった。ねえ、どんな外見だった?」
「身長は2メートル程もある大柄の男で、下半身はヘビのような鱗を持ち、髪は燃え盛る炎のように逆立っていたよ。前回召喚したウィンディーネと違い、操るのに苦労したな。でもバジリスクの体が大きかったおかげで的が狙いやすかった」