第28章 【トム・リドル】
恐ろしく静かな部屋に、リドルの笑い声だけが反響していた。この少年が、数年後『名前を言ってはいけないあの人』とまで言われるほど凶悪な魔法使いになると誰が予想できただろう。そして多くのマグル達を、多くの魔法使い達を、ハリーの両親を殺した張本人になると誰が予想できたのだろうか。
震える唇をぎゅっと噛みしめると、ハリーは小さな声で、しかしハッキリと言った。
「――違う」
「何がだい?」
「お前は世界一偉大な魔法使いじゃない!本当に世界一偉大な魔法使いはダンブルドアだ!!」
「何だって……僕がダンブルドアに負けていると?」
「そうさ!お前が強大な時だって、ホグワーツを乗っ取るどころか手出しさえできなかったじゃないか!!ダンブルドアはお前が在学中の時から目をつけていた。お前は今だにダンブルドアを恐れている!!」
リドルの顔から微笑みが消え、冷たい背筋も凍るような視線を向けた。
「ダンブルドアは、僕の記憶に過ぎないものからこの城を追い出された!僕の方が勝っている」
「違うね、ダンブルドアは思っているほど遠くには行っていない!!」
「そうだ!ダンブルドアは必ず帰って来る!!」
ハリーの言葉から勇気をもらい、クリスも食ってかかった。本当はそんな確証はどこにも無かったが、言葉にするだけで、本当にそうなるような気がしてきた。
するとどうだろう、何処からか聞いたこともない音色が微かに聞こえてきた。突然の事に、ハリー、クリス、そしてリドルまでもが何処から音色が聞こえてくるのか暗い部屋の中を見回した。
段々と音が大きくなり、3人の緊張が最高まで高まって来た時、傍にあった柱の頂上から炎が燃え上がった。そして炎の中から、見たこともないほど美しい深紅の鳥が姿を現した。
クリスは敵の前だと言うのに、一瞬その姿に見とれてしまった。その深紅の鳥は、金色の爪にボロボロの帽子を掴んでいる――組み分け帽子だ!
「不死鳥か……」
「もしかして、フォークス?」
ハリーがそう言うと、フォークスと呼ばれた深紅の鳥は、スーッとハリーの方に飛んで行って掴んでいた組み分け帽子をハリーの足元に置き、まるで当然のようにハリーの肩に止まった。
突然の事に、ハリーもクリスも言葉を失ったが、リドルだけが大笑いをしていた。