第28章 【トム・リドル】
「話しを元に戻そうか――そう、あれは再びこの馬鹿な小娘が日記を手にしたことだった。僕は憤慨したよ、折角ハリー、君の手に移ったと思ったのに。きっとこの子は日記の使い方を知られたら、今まで書いた自分の秘密がばれてしまうと思ったんだろう。だから君のいない間に部屋に入り込み、僕の日記を持ち出したんだ。だけど僕は確信していたよ、ハリー。君は何があっても絶対にこの『秘密の部屋』にたどり着くとね。ジニーから君たちの話を色々と聞かされていたからね。そう、1年前の話も……」
「……1年前の?」
1年前と言われて思いつくのは、賢者の石を『例のあの人』から守った事だ。しかし、それがリドルにとって何故重要なのだろう。
「ヴォルデモートの事だったら、君と何の関係があるんだ!?君はあいつより後に出てきた人間だろう!」
「ヴォルデモートは――僕の過去であり、現在であり、そして未来でもある……ハリー、教えてくれないかな。どうしてただの赤ん坊だった君が、強大な魔力を持った魔法使いを傷1つで破ったのか。たった1年生のチンケな魔法使いが、闇の魔力に打ち勝ったのか?」
「そんな事を知って、何になるっていうんだ」
「『そんな事?』僕にとっては『そんな事』ではないんだよ、ハリー」
リドルはハリーの杖を取り出すと、空中に金色にきらめく文字を書いた。
TOM MARVOLO RIDDLE
もう一度杖を振ると、空中に描いた文字が揺れて別の言葉を記した。
I AM LORD VOLDEMORT
「これで分かったかい?」
振り返ってにっこりと笑うリドルに、クリスは今度こそ背筋が凍り付いてしまうかと思った。これ以上ここにいたら危険だと、頭の中で警鐘が鳴り響いているのに、足は固まったようにピクリとも動かない。混乱する頭の中で、1年前の出来事が蘇ってきた。
「この名前はホグワーツ時代から親しい友人の間だけに使ってきた名前だ。汚らわしいマグルの父親の姓を、僕がいつまでも使うと思うかい?母方に尊いサラザール・スリザリンの血を持つ僕が、魔法使いと言うだけで母を捨てた奴の名前を、僕がそのままにしておくと思うかい?――そんなはずはない、僕はいずれ誰もが口にするのを恐れるほど、世界一偉大な魔法使いになると確信していた。だから僕は自分の名前を自分でつけることにしたんだ!!」