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ハリー・ポッターと純血の守護者

第3章 【常闇のノクターン】


「……や、やあ」

 ――パタン。
 何も言わずに、クリスは扉を閉めた。目の錯覚か、それともこれが飾り棚の魔法なのか。今この中にハリーの姿が見えた気がした。いや、きっと気のせいだろう。誰がどう考えたって、あのハリー・ポッターが闇の魔法使い御用達の店の飾り棚の中で、割れた眼鏡をかけてススまみれの格好で潜んでいるわけがない。
 クリスが今見たものを必死で忘れようとしていると、内側から飾り棚の扉がゆっくりと開き、中からハリーが再び「……やあ」とマヌケな挨拶をした。どうやら幻ではなかったらしい。

「気持ちは分かるけどさ、いきなり閉めないでよ」
「悪かった。君によその家の飾り棚に潜む趣味があったなんて知らなかったから」
「違うよ!本当はダイアゴン横丁に出るつもりだったのに、間違えてここに出ちゃったんだ」

 それを聞いて、ようやく合点がいった。このススまみれの姿から見るに、ハリーは煙突飛行粉を使ってダイアゴン横丁に行くつもりだったのだが、おそらく名前をちゃんと唱えなかったか何かで、ノクターン横丁に来てしまったのだろう。初心者の中にはそういったミスを冒す者もいると噂で聞いた事はあるが、クリスが実際に目にするのはこれが初めてだった。

「ねえ、マルフォイも来てるんだろう?こんな格好でいるところ、見つかりたくないんだけどどうすればいいかな?」
「そうだな、見つかるとまたややこしくなる……よし、私が――」
「クリス?さっきからなにを独りでブツブツ呟いてるんだい?」

 その瞬間、クリスは電光石火のごとく飾り棚の扉を閉めた。あまりにも勢いよく閉めたせいでハリーの鼻がぶつかったような気がするが、生憎そんなことまで気にしていられない。
 そ知らぬ顔で振り返ると、ドラコが非難がましい目でこちらを見つめていた。冷たい灰色の目は、彼の父のそれとそっくりだ。

「父上からここにある物には触るなって言われていただろう」
「あー、その……この飾り棚があんまりにも素晴らしかったから、つい……」
「こんな薄汚いやつがか?」
「ア、アンティークっていうのはそういうものなんだよ」
「……ふうん。ま、僕ならもう少しマシなものを選ぶけどね」
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