第27章 【握りしめた手】
「君たち、私だって大変な仕事をしているんですよ。まずそういう人達を探し出し、どうやって仕事をやったのかを事細かに聞き出す。それから『忘却術』をかける。すると彼らは自分のしたことを忘れる。私の誇れることと言えば、そう『忘却術』ですね。――その効果を今お見せしましょう。じゃないと本が一冊も売れなくなってしまう。さようなら、愚かな英雄達よ」
ロックハートが杖を振り上げるより早く、ハリーが素早く杖を取り出し呪文を唱えた。
「エクスペリアームズ!!」
途端にドーンとロックハートの体が壁に叩きつけられた。杖は山なりに飛んできて、ロンがそれをキャッチすると窓から投げ捨てた。
「あのチンケな決闘クラブでも、なかなか役に立ったみたいですね」
ハリーは杖を突きつけたままロックハートに凄んでみせた。ロックハートはもう二枚目では無くなり、ただの中年のおじさんに見えた。それもかなり無様な。
「私に何をさせたい?『秘密の部屋』なんて知らないし、中にいる怪物がどんなものかも知らない」
「その辺は僕らに任せてもらおう」
「さあ、立って!」
杖を突きつけながら、ハリーはロックハートを『嘆きのマートル』のトイレまで連れて行った。トイレの中では、マートルがいつもの様にパイプの上に座りながら顔に出来たニキビを潰していた。
「あら、あんた達また来たの」
ポリジュース薬を作って以来、ここには訪れなかったので、久々にマートルと対面することになった。めそめそ泣いていない所を見ると、今のところ彼女の気分は良いらしい。
「何しに来たの?また変な薬でも作るつもり?」
「そうじゃなくて……君が死んだときの様子を聞きに来たんだよ」
一瞬、マートルが癇癪を起してまた泣き叫ぶと思ったが、現実はその全く逆で、目をパッチリ見開き興奮したようにハリーに詰め寄った。
「ああぁぁぁ~、あれは本ッ当に怖かったわ。私のメガネをオリーブ・ホーンビーがからかったから、ここに隠れて泣いてたの……そしたら誰かが入ってきて、変な言葉をしゃべっていたわ。多分外国語だったと思う。でも嫌だったのは入ってきたのが男子だったことよ!だから私、『男子は男子トイレを使いなさい』って怒鳴ってやろうとしたの。そしたら――」
思いっきり息を吸い込むと、マートルはここ一番と言う風に囁いた。