第25章 【蜘蛛の王】
「それじゃあ――僕たち、帰ります。ありがとう御座いました……」
「帰る?――それはならんな」
「え?だ、だって――」
「儂の命令で、子供達にはハグリッドに傷1つ付けんよう言い聞かせておる。しかし儂らの目の前にのこのこと進んでやってきた新鮮な肉を、おいそれと見過ごすわけにもいかん。――さらばだ、ハグリッドの友人よ」
その言葉を最後に、周りにいたクモたちが一斉にクリス達に襲い掛かってきた。クリスは杖をローブから素早く取り出した。
「ルーモス・マキシマ!!」
クリスの杖から放たれた閃光に、クモたちは一瞬怯んで木の陰に隠れた。その隙にクリス達はもと来た道を戻って行った。こんな時に絶対方向感覚があると本当に役立つと思う。
しかしクモ達も必死になって後をついてきている。鬱蒼と茂った森の中では、クモの方が絶対的に有利だ。もう少しで捕まる――そう思ったとき、再び強い閃光がクリス達を照らした。この光は――フォードアングリアだ!!
「ファング!!」
クリスはファングを無理矢理後部座席に押し込むと、自分もその流れで後部座席に乗り込んだ。自動的にドアが閉まり、ロンがアクセルにふれる間もなく車は発信しだした。ホッと息を吐いたのもつかの間、クリスの首に何かが絡んできた。クモの糸だ!
「くそっ、このッ!」
割れた後部座先の窓から、何十匹と言うクモが口から糸を出してクリスの首を絞めている。クリスが暴れれば暴れるほど、クモの糸はクリスの首を絞めつけてくる。だんだんと意識が薄くなり、ファングの吠える声が遠くなっていく。ついにクリスの体が割れた窓から外に飛び出したが、車は前進したまま止まる気配を見せない。
「下がれ!下がれよ、このっ!!」
「クリス、クリス!!」
ロンがどんなにブレーキを踏んでも、車は言う事を聞かずに森を抜けようと無理矢理木立を踏みつけ、道なき道を行きながら禁じられた森の入り口にたどり着いた。そして自動的にドアを開けると、プッと軽くクラクションを鳴らし、乗っていた者たちを無理矢理降ろすと、また森の中へとゆっくり行ってしまった。