第25章 【蜘蛛の王】
「どっ、どうしよう!?」
「どうしようって、クリスを助けに行かなきゃ!!」
「でもどうやって?僕らあの道なんて覚えてないよ!」
「そうだな……よし、ファング!」
ハリーはファングと一緒に後部座席から追い出された召喚の杖を拾った。
「ファング、このにおいをかいで。クリスが何処にいるのか探すんだ!!」
ファングはフンフンと召喚の杖の匂いを嗅ぐと、「ワオン!」と一声鳴いて森の中へと走って行った。
* * *
その頃、再びクモの巣穴に戻ってきたクリスは、大勢のクモに囲まれ餌になる時を待つ身分となっていた。活きの良い、柔らかい子供の肉など食べたことのないクモ達にとっては、まさしく夢に見たごちそうである。待ちきれんばかりに、一匹のクモが今まさに喰いつこうとしたその時――どこからか生暖かい風が吹いてきて、木々を揺らした。
『――待て』
その言葉を聞いて、クモ達は一斉にその場を退いた。それまでごちそうにありつけると思っていたクモ達が、今度は一変、恐怖に身を震わせている。
言葉を発した者――少年は、意識を失っているクリスを抱きかかえると、ふっと笑ってその場を後にした。
ふわふわと、まるで中に浮いている様な感覚に、クリスはそっと目を開けた。黒髪に、透けるような白肌、端整な顔立ち。まるで秘密の部屋で見た父様の若いころを思い出させた。
「……父、様?」
『やあ、目を覚ましたかい?』
違う、父ではない。なぜならその瞳がクリスのように赤い瞳をしていたからだ。それに、父がこんなに若い姿で現れるはずがない。あれは父の記憶の中だったのだから。
「あなたは……だれ?」
『僕はリドル。トム・リドル』
「トム……リドル?」
どこかで聞いた名前だ、そう、確か我が家の秘密の部屋にいた肖像が言っていた名前だ。しかし何故とっくに学校を卒業した人物が自分を助けてくれたのだろう。それにこんなに若い姿で……。
「これは、夢?」
『そう、夢――のようなものだよ。だから今はお休み、僕の可愛い――』
再び気が遠くなり、最後の言葉が聞けなかった。温かい腕に揺られ、クリスは全身を彼に委ねた。それを見て、少年は赤い唇の端を少し持ち上げた。
『必ず手に入れて見せるよ。僕の可愛いクリス――クリス・グレイン』