第25章 【蜘蛛の王】
全てを言い切る前に、ハリーの体は黒い物体によって拘束され、闇の中へと消えて行ってしまった。ハリーを追おうとした瞬間、クリスの体も何者かによって拘束され、身動きが取れなくなってしまった。ファングのキャインキャインと鳴く声が、ドンドン遠くなる。そして風の様に素早く木立の間をきり、森の奥へと連れ去られてしまった。
どれほどの間森を駆け抜けただろう。暗い森の中から突然薄暗い場所に出たと思ったら、クリスは今までに見たことのない光景を目にした。何百と言う大きなクモが、窪地を囲むようにびっしりと地面や木の枝に張り付き、8つの目でこちらをじっと眺めている。クリスはハリーの隣りに乱暴に地面に落とされ、その隣にロンとファングが同じようにドサッと地面に投げつけられた。
「アラゴク!!」
ハリーを捕まえていたクモが叫ぶと、周りにいたクモたちが、まるで王の名でも呼ぶように鋏をガチャガチャ鳴らしながら大声で次々に連呼した。
「アラゴク!アラゴク!アラゴク!アラゴク!――」
「――静まれ」
低いうなり声と共に、巨大なクモが姿を現した。その大きさはまるで像のように大きく、胴体と足を覆う黒い毛には白いものも交じり、鋏は2メートル以上はあると思われる。そして8つの目は全て白濁している。かなり老齢のようだ。
「何の用だ?」
アラゴクと呼ばれた巨大クモが喋った。その風格はまさにクモの王様のようで、明らかに他のクモたちとは一線を画している。初めて見る怪物に、ハリーもロンもクリスも一言も口がきけなかった。
「人間です、森の奥までやってきました」
「ハグリッドか?」
「いいえ、見たこともない子供3人と、犬が1匹です」
「――殺せ」
有無を言わさぬその言葉に、3人の背筋にひんやりとした汗が流れた。何か手を打たなければ本当に殺されてしまう。
「僕たち、ハグリッドの友達です!」
とっさにハリーの言葉が口から飛び出た。そうでもしないと本当に殺されると思ったのだ。
「友達?」
その言葉に、周りにいたクモが一斉に鋏を止めた。ハリーの判断は間違っていなかったらしい。不気味なほど静まりかえった窪地で、月の明かりだけがクリス達を照らしている。