第3章 【常闇のノクターン】
ルシウスは先ほどのクリスの態度を思い出し、邪悪に口元を歪ませた。奴らもダイアゴン横丁に来るとすれば、これは正に絶好の機会だ。上手くいけば、憎きアーサー・ウィーズリーを魔法省から追い出せるかもしれない。いや、英国一恐ろしい監獄、アズカバン行きにする事だって可能だ。
持ち込んだ品物の中から、ルシウスは古ぼけた1冊の黒い日記帳を手に取った。
「それは!……まさか本気なのか、ルシウス」
「なに、ちょっとした余興だよ。それに本当はお前も気になっているのだろう?自分の先祖が残した伝説の――“秘密の部屋”が」
* * *
「……はぁ」
丁度その頃、マダム・マルキンの洋裁店の壁にもたれながら、クリスは何度目かのため息を吐いた。窓の外から店の時計をうかがい時間を確かめると、もうかれこれ30分近くこうしていることが分かり、クリスはまたため息を吐いた。
予算の問題で新しい制服を断念したのは、まあ良い。そもそも口から出まかせただけで、特に必要なものではない。クリスにとって問題は、隣に立っているのが栗毛でふわふわしたロングヘアーの少女ではなく、昼の日差しに照らされた派手なプラチナブロンドの少年だという事だった。
「なあドラコ、暇じゃないか?なんなら他を見てきてもいいんだぞ」
「何を言っているんだい、街中で君を1人にするわけにはいかないだろう」
「……どうだか」
ダイアゴン横丁の入口で分かれたはずのドラコがここにいる理由はただ一つ、父親との約束を破った事が、途中で怖くなったのだ。グリンゴッツ銀行の入口でドラコの姿を見たとき、やっぱり連れてくるんじゃなかったと後悔した。おかげで計画が水の泡だ。
クリスはもう一度店内の時計を見た。
「もうこんな時間か……流石にもう来てるだろうな」
「30分程だと仰ってたから、そろそろ来るころだと思うんだけどな。父上は時間には厳しいから」
クリスはハーマイオニーの事を言っているのだが、ドラコは父親の事だと思ったらしい。そしてドラコの言うとおり、それから数分もしないうちにドラコの父、ルシウス・マルフォイがパチンとはじける音と共に2人の前に姿を現した。この数10分の間に何か良いことがあったのか、今朝顔を合わせたときより多少機嫌が良くなったように見える。