第23章 【最悪のバレンタイン】
「なあ……みんな。もし私が、真の後継者だとしたらどうする……?」
クリスは長い間考えていた自分答えを、恐る恐る口にした。その瞬間、水を打ったような静寂が辺りを包んだ。――かと思ったら、次は爆笑の渦が巻き起こった。
「あはははは!クリスが、クリスが真の後継者!!?」
「ありえない、ありえない、こんなマグル好きがどうしてマグルを襲うんだよ!」
「僕の金庫にあるお金全部賭けたって、そんな事ありえないね!!」
「な、な、そこまで笑わなくてもいいだろう?私は真剣に――」
「あー、分かった、分かった。どうせマルフォイにでもそういわれたんだろう?あいつ、僕たちにもそう言ってたけど、ありえないよ。だって君だろ?」
3人ともクリスの言う事を根っから否定した。それはクリスの心に温かい風をおくってくれた。クリスは目の奥がじんわりと痛くなってきた。3人がバカバカしいと笑ってくれたことで、クリス自身もバカバカし事だと思えるようになった。
そうだ、この左腕の痣は『例のあの人』との繋がりだけではない、父様との繋がりでもあるんだ。3人がひとしきり笑った後、クリスはそっと左腕の痣に手を置いた。
* * *
やがて2月に入ると、なぜかロックハートが鼻歌交じりで廊下を闊歩するようになった。まるで真の後継者は、自分のおかげで影を潜めているのだとばかり思っているようだった。しかしそれだけではなかった。ロックハートの恐ろしい計画が影を潜めていることを、ホグワーツ中の誰もが予想だにしていなかった。
それはバレンタインデーのある朝の事だった。大広間はこれ以上ないって言うくらいけばけばしいピンクの花で覆われ、天井からはハートの紙吹雪が舞っていた。そう、これこそロックハートが計画していたバレンタインデーの――悪夢と言う名の――催しだった。しかも大広間の飾付だけだけでなく、ロックハートの手によってハープと金の翼をつけられた不細工な小人が、カードを配りにぞろぞろ入ってきた。
幸運だったのは、いつも通りクリスが寝ながら大広間に来た事だった。ロン曰く、この大惨事を見なくて済んだのだから。いつものように寝ながら紅茶を飲むクリスを、いつ起こそうか、ハリーとロンとハーマイオニーは額をくっつけあって話し合った。