第22章 【黒い本】
フィルチの足音がだんだん小さくなっていくのを聞いてから、3人は廊下の角を曲がった。フィルチがいつも陣取りをして、ミセス・ノリスが襲われたところが水浸しになっている。それも尋常ではない量だ。その上嘆きのマートルのトイレの下からさらに水が漏れだしている。これではいくらモップで拭いても意味がない。
いくら嘆きのマートルのトイレといえど、こんなに水浸しになった事は殆どない。3人は真相を確かめるべくマートルのトイレに入った。トイレに入ると、耳を覆いたくなるような大声でマートルが泣いていた。これは一体何事だろう。
「どうしたの?マートル」
ハリーがなるべく優しく聞いた。こういう時、ハーマイオニーがいてくれたらなあと思う。
「誰なの?」
マートルがしゃくりあげながら聞いた。鼻水をすすりあげる音が壁一面に響く。
「また何か、私にぶつけに来たの?」
ハリーがゆっくりゆっくり水たまりをよけながら、マートルに近づいて行った。
「どうして僕が君に危害を加えようと思うの?」
「私に聞かないでよ!!」
ヒステリーチックに叫ぶと、またも便器の水があふれ床を濡らした。もう靴の中は水浸しでグチョグチョだ。きっと外の廊下も酷いことになっている事だろう。
マートルはいつも通りパイプのU字管の所に座って話し始めた。
「わたし、いつもここで誰にも迷惑かけずに座っているだけなのに……私に向かって苛める人がいるの」
「苛める?誰が、どうやって?」
「分からない……ただ後ろから誰かが本を頭に向かって投げつけたの……」
「本をぶつけたって……君には関係ないだろう?その……君の体を通り抜けちゃうんだし」
その一言が余計だった。マートルはヒステリックな叫び声を上げながら天井まで大きく飛んだかと思うと、怯えるハリーの目と鼻の先までやってきた。