第21章 【秘密の部屋】
「見つからなかった?じゃあ彼方の代じゃないんですか?『秘密の部屋』が開いたのは?」
「何?!今回以外にも、『秘密の部屋』は開いたのかっ!?」
そう言って、頭を抱えてぶつぶつと言い始めた。「ありえん……奴以外に……」と小さく聞こえた。
「トム・リドルを探せ」
「トム・リドル?」
「私以外に、『秘密の部屋』に一番近い男だ。きっと奴が手掛かりになる」
「有い難う御座います」
「皮肉なものだな、貴様に礼を言われるとは……」
そう言って、額縁の男は深い眠りについた。クリスはテーブルの上から落としてしまった物を片付けようとしていると、半円の水槽のような物に、何かが反射しているような気がしてつい顔を近づけた。すると、不思議な力でその水槽の中に吸い込まれてしまった。
気が付くと、クリスはホグワーツの庭にいた。水槽に飲み込まれたというのに、体は少しも濡れていない。
辺りを見回すと、湖水に向かって木の下で絵を描いている少年がいる。黒い髪に、白い肌、彫刻のような整った横顔。間違いない、父様だ。自分はタイムスリップでもしてしまったのだろうか?
「あの~、父様?」
クリスは恐る恐る声をかけた。
「済みません、勝手に使う気じゃなかったんです。部屋を片付けていたら突然……」
しかし声をかけてみても、父はまるで言葉が耳に入っていないように無視をしている。怒っているのかと思ったが、その風景画を描いている父の顔は柔らかだった。
試しに目の前で手をヒラヒラ躍らせてみても、気にせず絵を描くことに没頭している。これは一体何なのだろう。クリスが背中越しに父の絵を見ていると、ふっと手元が暗くなった。
「とってもきれいな絵ね。いつもここで絵を描いているの?」
ふわふわのはちみつ色の髪に、誰もがため息をつきそうになる笑顔。間違いない、母様だ。初めて聞く母の鈴の音のような声に、クリスついうっとりと聞き入ってしまった。
しかし父は眉間にしわを寄せ、乱暴にスケッチブックを閉じると、どこかへ行ってしまった。完全に母を拒否しているようだ。