第21章 【秘密の部屋】
「そこにいるのは誰だ?」
突然男の声がして、驚いたクリスは壁ぎりぎりまで下がった。その瞬間。テーブルの上にあったものが何点か落っこちた。父様よりも年を取った声で、威厳を感じさせる強い声の持ち主だ。クリスは辺りを照らした。
「そっちこそ誰だ、どこにいる!?」
「随分と生意気な小娘だな。此処だ、此処にいる」
壁一面に飾られた肖像画の一枚が、微かに動いている。クリスはそちらに向かって蝋燭を向けた。
似ている、父様に。まるで父様を20歳ほど年老いたかのようだった。しかし瞳は暗い赤の様な、茶色のような、光の加減でどちらにも見えた。まるでクリスのようだ。
「貴様は誰だ?何処から入りこんだ?」
「何処って、父様の執務室の暖炉からだ」
「そんな訳はない。あそこはパーセルマウスにしか開けられない。カラスを連れていないお前に開けられる訳がない」
「ところが、私がそのパーセルマウスとやらでね。カラスを連れてなくても開けられるんだ」
「なに?お前が?」
「そうだ」
そう言うと、相手は少し考えるようなそぶりを見せ、声高らかに笑った。
「ククク……ハハハ、ハーハッハ!!そうか、そういう事か!」
「な、何がおかしい!!」
「いや、なに。貴様が無様にも周囲に騙されているのが滑稽でならん」
「騙されている?私が?誰に?」
「それを全て教えてやるほど、私は親切ではないのでな。知りたければ自分の力で知るが良い。何事も自分の力だけが頼りだ」
「そうか、もういい!!『秘密の部屋』くらい自分で探してやる!」
「何ッ!?待て、『秘密の部屋』だと!!?」
額縁から飛び出さんほど、絵の住人は『秘密の部屋』と言う言葉に食いついてきた。
「知っているのか?『秘密の部屋』を!!?だったらどこにあるか教えてくれ、友達が襲われるかもしれないんだ。もう犠牲者は4人も出てる!」
「――私も、『秘密の部屋』がどこにあるかは知らん。だが我がスリザリンの血を引く家に、こんな詩が残っている――赤き太陽が闇に覆われし時、純潔なる双子の乙女、聖なる名において我らを守りたもう――私も在学中、『秘密の部屋』が何処にあるのか探しつくしたが、とうとう見つからなかった」