第21章 【秘密の部屋】
「そうだ、チャンドラー。シャワーを浴びようと思ったら、お湯が出なかったんだ。多分ボイラーが壊れていると思うから、直せ。それもマグル式でな」
「マグル式ですか!?どうしてそんな手間がかかる方法を!?」
「その方が正確なんだよ、良いな、少なくとも1時間はかけろよ。紅茶をこぼした罰だ」
そう言って、クリスは何事もなかったかのように階段を下りていった。そしていつもながら、見ているだけで気分が重くなる父様の執務室のドアを小さく開けると、滑り込むように部屋の中に入った。そして例の暖炉の前に立つと、ヘビの彫刻を見て生つばを飲み込んだ。
『開け、秘密の扉よ。汝が我に正しき姿を現したまえ』
クリスがパーセルタングでそう言うと、暖炉がひとりでに動き、地下へと続く階段が現れた。クリスは蝋燭を片手に一歩一歩階段を下りていく。埃っぽくかび臭い階段は、どこまで続くんだろうと思うほど長かった。やっと地下にたどり着くと、今度はまたどこまで続くのだろうかと思うほど長い廊下が続いていた。廊下の両脇にはそれぞれ取っ手のついた部屋があり、クリスは一番手前の部屋を開いた。
するとそこには20台ほどの石の棺桶が設置されて、より一層かび臭い匂いがした。間違いなく、ここは霊廟だ。次の扉も、その次の扉も開いてみたが、皆同じように棺が並んでいる。クリスは諦めて、廊下を真っ直ぐ進むことにした。
どこまで廊下を進んだだろう。今度は真正面に大きくヘビの彫刻をかたどった扉が現れた。取っ手はなく、クリスはまたもパーセルタングで『開け、秘密の扉よ。今こそ真実の姿を現せ』と言った。するとゴゴゴゴゴ……という音とともに、扉が開いた。
そこは不思議な部屋だった。そこの部屋だけはかび臭くなく、目立つ埃もみあたらない。そしてクリスが見たこともないような魔法の道具が置かれ、テーブルの上には水晶玉や豪華な宝石箱に入ったネックレス。床には絵画も何点か立て掛けられ、金と宝石で出来た肘掛け椅子や、半円形をした水の入った水槽のような物も置かれていた。
その絵画の中に、見知った顔を見つけクリス手に取ってみた。母様だった。家に飾ってある絵とは違い、微笑んでいるけれど、どこか寂しそうな……嬉しそうだけれど泣きそうな顔で大きくなったお腹を撫でている。お腹にいるのは――私だ。