第21章 【秘密の部屋】
そう考えただけで恐ろしくなって、クリスはベッドに潜り込んんだ。どうしてまた例のあの人が力を取り戻してきているのだろう。
確かめなくては、我が家と『例のあの人』に何があるのか。父が昔『例のあの人』に無理矢理使えてきたことは知っているが、それ以上何があるのか。我が家の秘密の部屋に、何があるのか。
クリスがベッドから起き上がり、杖をもって勢いよくドアを開けた途端、派手に何かとぶつかった。チャンドラーだった。
「お前っ、こんなところで何をしているんだ?」
「いえ、お嬢様がよく眠れるようにとカモミールティ―をお持ちしました」
確かに廊下には、ティーセットと銀のトレイが転がっている。クリスの最近できた目の下のクマを見て、チャンドラーが配慮したのだろう。しかしそれも今は絨毯のシミだ。
「しかしお嬢様、こんなお急ぎでどこへ行かれるはずだったのですか?」
「あー、いや、なんでもない……」
その時、何か上手い言い訳はないかと辺りを見回した。辺りは夏に調査が入ったままアンティークの殆どがどこかへ消えている。残っているのは母の肖像画だけだ。
「そういえば、母様の肖像画だけ動かないな」
魔法使いの肖像画や絵画は大抵生きているかのように動いているが、母の絵画だけはまるでそこで時間が止まったかのように動かない。今ままで気にもしなかったのが、これだけ廊下ががらんとしているとやけに気になった。
「それはそうですよ。レイチェル様の絵は、全てご主人様が直々にお描きになったものですから」
「へ~、父様が直々に……って、父様があぁ!!?」
「はい。もしかしてお嬢様、ご存じなかったのでしたか?」
「知らないも何も、父様にこんな趣味があったなんて思いもしなかった……」
あの堅物で仕事人間で趣味の一つもなさそうな父様に、こんな特技があったなんて……クリスは目の前にある母の肖像画をまじまじと見つめた。無邪気な笑顔で笑いながら、大きな花束をかかえる母に見入っているうちに、クリスは自分のやろうとしていることを思い出した。