第2章 【沈む太陽】
「それは違うなクリス。先祖代々から伝えられた貴重な品を護るのは当然だろう、それを後から法律を作って、勝手な理由で奪おうっていう魔法省の方が間違っているんだ」
純血主義の代表ともいえるマルフォイ家の嫡男だけあって、ドラコの純血及び先祖に対する敬いは相当なものだ。それと同時に、排他的な傾向もかなり強い。
反対に、クリスには家や血統などに対する執着はほとんどと言っていいほど無かった。むしろ潰れかかった家を建て直す為に勝手に許婚を決められた事で、反感すら持っている。
クリスは店内を見回しながら、声をひそめた。
「そういう考えだから時代に取り残されるんだ。時間が進めば時代も進む、太陽も昇ればいつかは沈む。それが自然の摂理だ」
「へえ、言うじゃないか。それじゃあ君の持っている召喚の杖も、魔法省が何か理由を付けて没収すると言ったら、君は素直に差し出すんだな?」
意地悪な問いに、クリスはとっさに手にしている杖を握り締めた。通常の魔法の杖とは似ても似つかない身の丈以上の大きな木の杖は、かけがえのないクリスの宝だ。いや、亡き母の形見であり、また精霊との媒介である召喚の杖は、世界中のお宝を集めたよりももっと大切な存在だ。去年の学期末も、これのおかげで命を救われている。
魔法省に没収どころか、誰かに2・3日貸してと言われたって首を立てに振りたくない。
「ほら、見ろ。偉そうに言っているけど、君だって渡せないんだろう」
「分かったよ、今日は私の負けだ――ところで」
漏れ鍋の裏口からダイアゴン横丁へ出ると、クリスは後のドラコを振り返った。
「私は初めに銀行に行くつもりだけど、お前はどうするんだ?」
「もちろん僕も行くさ。父上にも君を頼むって言われてるんだ」
「行くのか、本当に?あのトロッコに乗りたいのか?」
クリスの言葉にドラコは顔をしかめた。グリンゴッツ地下内に張り巡らされたトロッコは乗り心地最悪な事で有名だ。時々これが好きという変わり者もいるが、常人ならまず乗りたがらない。
ドラコは父との約束と身の安全を天秤にかけ、結局可愛い我が身をとった。
「……クィディッチ用品店で待っている。……あっ、この事は父上には言うなよ!」
「はいはい、それじゃまた後で」