第2章 【沈む太陽】
ダイアゴン横丁の入口であり、魔法界とマグル界を繋ぐ境目となっている漏れ鍋は、その見た目とは裏腹にかなりの利用者がいる。しかし外観はともかく、儲かっているはずの店内がいつまで経っても古臭いのは、きっと主人が自分の外見に合わせているせいかもしれない。誰がどう考えても歯抜けで小汚い漏れ鍋の主人トムに、小奇麗で洒落たパブなんて似合わない。
大きめだが店に良く似合う古ぼけた暖炉から出ると、ドラコは繋いでいた手を放しローブに僅かについたすすを払った。慣れっこなクリスとは反対に、神経質な彼はいつまで経ってもこの移動方法はお気に召さないらしい。おまけに朝から父親にチクチクやられているので、彼のご機嫌も右肩下がり一直線というものである。
「どうせまた、学期末試験の事でおじ様に何か言われたんだろう?」
からかうクリスに、ドラコは答えず拗ねたようにフンと鼻を鳴らした。例え学年で2位の成績を取ったといっても、ルシウスがドラコを褒める事はない。むしろ穢れた血に次いで2番だった事に心底腹を立てていた。普段はドラコに甘いルシウスも、こういうことに関しては誰よりも厳しい。
そういう意味では、必ずしもトップを強要しないだけルシウスはクリスに甘かったが、機嫌が悪いと誰かれ構わず小言が多くなるので、こういう時は妻のナルシッサ以外の誰もがなるべく近づかないようにしている。
先ほどのルシウスの態度を思い出して、クリスはため息を吐いた。
「はあ、おじ様もそれさえなければなあ……そういえば、どうして朝から機嫌が悪かったんだ?」
「もうすぐ魔法省の抜き打ち視察が入るからだろう。まったく、馬鹿共もいい加減やるだけ無駄だって分からないのか。おかげでこっちは朝から酷い目にあったっていうのに」
抜き打ちと言うわりに事前情報は筒抜けなのは、魔法省の無能さが原因か、それともマルフォイ家の根回しが功をなしているのか。どちらにせよ父と結託して、見つかったら不味いものは素早く他所へ移しまんまと視察を逃れようとする手際の良さは流石といえよう。
「なるほど、それでチャンドラーも朝から家の骨董品隠しに大忙しだったってわけか。馬鹿らしい、そんな苦労するくらいならさっさと手放せば良いのに」