第17章 【Memories】
「それじゃあ証明して見せろよ、こいつが喋ったかどうか」
「いいよ。初めまして、私の名前はクリスす。あなたのお名前は?」
『アルファルド、意味は蛇の孤独な星というんだ。中々気に入っていてね』
「この子の名前はアルファルド、結構気に入っているらしいよ」
クリスがきっぱりとそう告げたとたん、後ろでお茶の準備をしていたチャンドラーがカップを落とし、絨毯にシミを作った。元々大きな目をこれ以上無いというほどに大きく見開き、手が震えている。
「チャンドラー!何をやってるんだ」
「ももも申し訳ありませんお嬢様。今すぐ片付けますので……ドラコ様、少しお待ち頂いても宜しいですか。お嬢様にお話がありますので」
チャンドラーは慌ててクリスを廊下に連れ出すと、真剣な眼差しでクリスの顔を覗き見た。
「お嬢様、蛇の声が聞えたという事は、決して誰にも知られてはいけません。ドラコ様にも他の方にも決して!あぁ……今夜はご主人様をお呼びしなけば――」
ブツブツ言いながら、チャンドラーはこぼしたお茶の後片付けをするため部屋へと戻って行った。誰に知られてもいけないと言われても、もうすでにドラコには知られてしまったので、これは2人だけの秘密だと言ってその場を切り抜けた。ドラコは「2人だけの秘密」という言葉に満足して、暫くアルファルドと遊んだあと、もう一度念を押して約束すると、微笑みながら家に帰っていった。
問題はその晩だった。クリスが広間で1人晩御飯を食べていると、突然暖炉の炎が激しく燃え上がり、エメラルドグリーンの炎の中から1人の男性が出てきた。この男こそこの屋敷の主人で、クリスの父親でもあるクラウス・グレインである。
「ああ、お帰りなさいませご主人様!!実は……実は、お嬢様が――」
「……お帰りなさいませ、父様」
父親が苦手なクリスは、何か言われる前に、急いで晩御飯を食べ終え部屋へ向かおうとしていたが、そんな事はすでにクラウスに見抜かれていた。チャンドラーに外套を渡すと、クラウスは低い声でこう呟いた。
「クリス、食事が終わったら私の部屋に来なさい」
こう言われたら、それはこの屋敷の絶対のルールだった。クリスは小さく「ハイ」とだけ答えると、その時がこない事を願って、ちびちびとスプーンを口に運んだ。