第17章 【Memories】
「まだ誰にも見せてないんだ、君に一番に見せようと思って持ってきたのに、本人がベッドの中じゃなあ……仕方がない、これはもって帰るとするか」
「……本当にいいもの?」
「ああ、世界中探したってなかなか手に入らないものさ」
「…………」
暫しの沈黙の末、ベッドの中のクリスがもぞもぞと動くと、まるで亀のようににゅっと頭だけ布団から這い出てきた。それを見越したように、クリスの目前にはスプーンを構えたドラコが待っていた。
「まずは、一口だけでもスープを飲んでからだ」
最初は唇を尖らせていたクリスも、諦めて口を開いた。そこに、まるで雛鳥のようにスープを口の中に入れてもらう。クリスがスープを飲み込むのを確認してから、ドラコは再びスープをよそう。
「ほら、もう一口」
「一口だけって言った」
「“まずは一口”って言ったんだ」
クリスは納得いってなさそうな顔をしていたが、スプーンを持ち構えるドラコに促され、もう一口くちにした。1週間水とパン切れしか口にしていなかったクリスの胃の中で、暖かいスープがじんわりと広がる。3回目からは、もうドラコが促さなくてもクリスは自ら口を開けるようになっていた。
そんな事をしていたら、チャンドラーがどんなに説得しても食べなかった朝食を、ゆっくり時間をかけながら完食してしまった。綺麗になった皿を見て、ドラコは満足げに微笑んだ。
「まったく、君は僕がいないと満足に食事もできないのかい?」
「ちがう、ドラコが無理やり食べさせたんだ」
「ふうん……そんな態度を取るのか。じゃあこれはお預けだな、せっかく持って来たのに」
「……卑怯者」
クリスは拗ねた顔をしながら、ベッドから起きた。そしてドレッサーの上にあるベルを鳴らすと、3秒も経たない内に扉をノックする音が聞こえた。
「お嬢様、お呼びでしょうか?」
「入れ」
そう言われて入って来たこの家の屋敷僕のチャンドラーが、クリスの機嫌を損ねないよう手をもみながら入ってきた。そして空になった皿を見て、大きな目玉に溢れんばかりの涙を浮かべた。